★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.1
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(1.記憶)・・・・・・・
前回までのあらすじ
山菜やきのこの仲間の「相田さん」と一緒に頼まれた
「ブナハリタケ」を採りに行きました。
この時期「ブナハリタケ」はもう遅く採取するところは、
あまり無いのですが、相田さんのお嬢さんの「こずえさん」が
でているところを知ってるということで・・・
案内されて山に入りました。
若い大学生の女の子が何でこんな奥山を知っているんかと
驚きましたが、山で木を切り倒してきのこを採ろうとしていた
おじさんたちを叱り付ける大胆さに・・更に驚いてしまいました。
この親子は一体何者・・・?
ただただ驚きの連続です。
前回の後半の部分です
・
・
・
・
「そうよ・・無鉄砲なのよ
でもおかあさん・・世間は少し知っているから・・私」
「あら・・そうかしら」
「だって・・私・・
石垣から相田に変えたでしょ・・世間知らず?」
「あなたって言葉だけは・・・大人なんだから」
・・・・・ふふふふふふっふ・・・・
山でのお昼はやっぱり楽しみなひとときです
いやなことを忘れさせるひとときです
・
・
・
・
ここち良い風が頬をなでたようです。
永く深い眠りにおちいっていたようです。
薄く目を開けると青空がどこまでも広がっています。
しばらく空を眺めていました。
時折吹く風がとても爽やかです
「あれ・・・ここは!」
青空から視線を横に向けました。
長く伸びた背の大きい草が目に入ります。
草の間からは、少し色づき始めた木々の葉が見えます。
すぐ脇を見ますと芝生のような先のとんがった草が
一面に敷き詰められたように生えています
横たわったまま目を芝生のような草の下手のほうに移しますと
小さな沼のようなものが見えました。
沼は浅くそこの藻のようなくさが見えるようです。
「一体・・・・ここは!」
「なんでここにいるの」
・
・
・
頭は、思考が空転しているようです。
なかなか思い当たらないので更に混乱してしまいました。
「だめだめ・・・・・」
頭を振って・・・・目を閉じて
そして再び目を開けました。
澄み切った青い空がとてもきれいに広がっています。
時折風になびく木々の葉音が聞こえてきます。
じっとしていると・・・
虫の音も聞こえてきます。
・
・
・
・
確か・・・・
舟形山の・・・
そうだ・・・
「相田さんたちと・・・」
「こずえさんと・・・」
・
・
・
「伊藤さん・・・」
こずえさんが山からの帰り道に話しかけてきます。
「私って変な子!」
「変って」
「普通の人より・・・変っている」
「変ってる?」
「だって・・・」
すかさず相田さんが
「変ってる・・・変ってる
その年でボーフレンドもいないんじゃ・・変ってる証拠よ」
「あら・・ボーイフレンドだったら
いつでもできますよ」
「おおそう・・じゃ・・今度紹介してよ」
「お母さん茶化さないでね・・
私まじめに聞いてんだから」
「こずえさん・・私まじめに聞いてますよ」
「変ナっ子の私から・・・
伊藤さんに頼みがあるの」
「頼み・・・」
「そうよ・・・」
「私にできる・・」
「できると思うけど」
「私・・・・おじいちゃんの書斎を整理していたときに
ある文献を見つけたの」
「文献?」
「文献っていうか・・・メモの整理したものや資料ね」
「ほらおじいちゃんって・・・仕事合間に各地にきのこと風土病などを
調べにいってたみたいなの・・・」
「おじいちゃんは・・医学者だしきのこ研究者だからでしょ」
「あの事務所「菌研」ゆずっちゃうでしょ・・・
だから私・・・片づけを母から言われて書類をかたづけていたら
その資料の中に、宮城や秋田、山形の地名が出てきたのよ」
「宮城や秋田、山形の地名!・・」
「きのこや風土病の研究ではなくて・・」
「何か別の目的で・・」
「資料では、何度か宮城にも来ているの
それも・・・仙台に来る前からだから・・・
私が生まれる前からよ・・・」
「おじいちゃんは仙台に来てからも・・何度と無く
その場所をたずねているの」
「それと私へのお願いが関係があるの・・」
「あるのよ」
「なんで・・???」
「山の仲間に詳しいから」
「私ではなく・・おばあちゃんよ・・親しいのは」
「おじいちゃんが探していたのは・・・
平家の落人の隠れ住んでいた場所よ」
「平家の落人の隠れ住んでいた場所??・・・
だったら・・私は何にも・・わからないけど」
「伊藤さんは・・わからないけど
伊藤さんの知ってる人がわかるかも・・」
「私の知ってる人・・誰・・おばあちゃん?」
「ほら・・母と・・マイタケ採りに行ったとき
案内してくれた人・・いたでしょ」
「田山さんって言うのよ」
「田山さん・・そう・・そう・・田山さんよ」
「田山さんが・・・落人と関係あるの・・」
「あると思うの・・・
または何かヒントになることを知ってるかも・・」
「えっ・・なんで」
「だって・・田山さんは「木こり」ですし・・
熊撃ちに山に入るでしょ・・・あっちこっちに
あの周辺の山には相当詳しいと思うの・・」
少し間をおいてこずえさんは、
田山さんのことを・・・
「それから・・・・田山さんの住んでいるところは・・
開拓場所ですし・・・2〜3km先には・・・
昔・・平家の落人だった人がいるじゃない」
「こずえさんは田山さんと平家とは関係あると思ってるの”」
「私の勘よ・・あてにならないけど」
「関係あるのかな・・田山さん?」
・
・
・
3人はしばらく無言で歩き続けてましたが
「こずえさん・・平家の落人だった人の家
知ってるの・・・?」
「おじいちゃんの資料にあったんで・・見に行ってきたの」
「見に行ったの!」
「会って話も聞いてきたの」
「話も!!!・・・」
平家の落人と言われる家は、田山さんの部落内にあって
今は競走馬の育成をやっているようです。
おばあちゃんはこの家の前を通るたびに
平家の落人で・・鎧、兜、刀、などがあるって・・・
昔行商で訪れていたので見せてもらったなどと話していました。
・・・・やっぱりこの娘は変っている・・・
なんで、こんなことに興味を示すのか見当がつきません
おじいちゃんの血がそうさせるのでしょうか・・・
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★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.2
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(2.郷土史)・・・・・・・
・・・・やっぱりこの娘は変っている・・・
なんで、こんなことに興味を示すのか見当がつきません
おじいちゃんの血がそうさせるのでしょうか・・・
・
・
・
・
この娘の考えていることは、わからない
とても難しいことのような気がしました。
この時期の日が暮れるのは早く、太陽は西に大分かたむきまもなく
山の頂に隠れそうです。
ススキの穂が大分茶色になってきています
ススキや藪をかけ分けて出た道ははっきりとわかる登山道でした
緩やかな下り坂なのでこれで一息・・・・安心です。
風もあまりない穏やかな日でした。
歩きやすい道に出ると「こずえさん」は話をつづけました
帰りに採取しようとした「きのこ類」については
もうすっかり忘れたようです。
先頭を歩きながら話すのですが、しっかりと語りかけるように
二人に向かって話しています。
「平家の落ち武者宅に伺ったら・・・
若い娘が珍しいとでも思ったんでしょ
上げて頂いて話を聞くことができたの。
おじいちゃんの資料の話しましたら興味深そうに聞いて
・・・そうだねえ
20年ぐらい前までは年に1〜2回ほど、どの変に住んでいたとか
落ち武者の暮らしはどのようなものっだったとか・・・
刀や鎧などを見せてほしいなど同じようなことで
来る方がいましたがそれ以降はほとんどいなくなりましたな・・・
若い人たちには歴史は興味が無いんじゃろうよ
テレビからも時代劇もんは少なくなったから
もう800年ぐらい前だから・・・
わしたちも何にもわからんといっているんじゃ
相当昔に火事に合って最初の家は全焼したと聞き覚えて
いるぐらいで
刀などは運良く燃えずに残ったけど・・・
その他は、みな燃えてしまって・・そのとき以来
住まいをこっちのほうに引っ越したと聞いているんじゃ
昔の住まいも・・・
跡形も無いからどこだったのか・・
聞くところによるとここから4〜5km先のようだが・・
今でもとんでもない山奥じゃよ
よ〜くあんなところに、住んでたもんじゃ
昔の人は辛抱だったにちがいない
内容はあんた達の方が詳しいだろうなあ〜
わしは自分の家系については無頓着だからの・・・
他人がときどき来て・・思い起こさせてくれるの・・・
・・・ハッハッハッハッハ・・・
そこのご主人は70歳ぐらいだろうと思うんですけど
よく聞くと、何代目かにお子さんが無くて
養子で迎えられたそうなので、直系ではないので
余計分らないのかも・・・と話されていたの・・
自分は何も分らないので・・知りたければと
訪ねて来る方に地元の郷土新聞を出している印刷屋さんと、
同じように郷土史を調べている方を紹介しているということでした」
「紹介いただいた新聞発行社と郷土研究家というところに
いって話を聞いたの、
新聞社ではもう大分前に新聞で取り上げたりしたけど昔のことで
・・・はっきりとは分らない・・・担当者も辞めたし・・・
資料はあるから見たいときは来てみてくださいって
とっても親切に教えてくれたんです。
そのときの記事は次に伺った郷土研究家のかたが執筆されたようで
新聞社の方も、この人に聞いてみたらと名刺をコピーしてくれたんです。
その方は現役時代は学校の先生で、先生時代から
郷土史を研究していたらしいの
この地域では一番詳しいだろうってことでした
郷土研究家のお家も新聞社と同じ鳴子町にあって、新聞社から
電話していただいてすぐ伺うことができたの
郷土研究家の方は、少し小太り気味で頭は薄くなっていて
汗を拭き拭きでてきて、私を見ると驚いたようでした。
何でこんなことに興味を持っているの!って感じです
おじいちゃんのことを話すと・・・
うん・・うん・・と・・うなづいてましたが・・
・
・
・
落ち武者の生活は・・・それは壮絶で・・言葉では
語れないぐらいの生活だったと思いますよ
例えば野菜や、米も洗うことができなかったんだよ
沢の水が米の汁で汚れているのが分ったり・・山菜や野菜の屑が
流れたりしたら人の気配が分るからね・・・
もちろん火をたくこともできない・・
そのような奥深い山でひっそりと息を潜めて生活しているんだから・・
それほど源氏の平家への討伐は厳しかったんだね
わかれば一家みな殺しだから・・・
女、子供だろうと容赦なくやられたからね・・・
命がけの生活だったから・・
だから住まいは見つけられないように・・簡素なものと
すぐに移住できるようなものだったとおもうんだけど・・・
場所の特定はこのような状態だからわからない・・・
一定の場所にいないんだから・・
ただこの付近に住んでいたのは、確かだね
何故この地に来たのかって・・・
もともと平泉をめがけて逃げてきたが、平家の落人討伐がいきわたり
平泉に行けなくなり・・一関から花山村、鬼首を経由して酒田方面に
逃げようとしたが要所要所に追っ手がいて、逃げ切れなくなり
この付近の山に逃げ込んだと思われるし
また別隊は、山形の銀山方面に逃げたものもいるし・・・
そのまま鬼首へとどまり・・鬼首から
秋田の秋の宮に逃げた人たちもいる・・
こんな田舎までようく源氏は追いかけてきたもんだと
その執念には恐れ入るね
そう話しながら、数冊のノートを出しました。
もし必要なら貸し出してあげるので・・・
・
・
・
ありがとうございます
必要なときにまた借りにお伺いしますから
と言って後にしたの。」
そこまでいうと・・また考えているかのように
無言になりました。
あたりは少し暗くなり始めました。
「急ごう」
相田さんが二人をせかします。
山を急ぎ足で降りてくると、登るときに通った
沼にたどり着きました。
写真を撮るためにテントを張っていた二人連れは
もう帰ったのか、いませんでした。
二人から「親子熊」の話を聞いても驚かない
「こずえさん」に、驚きましたが・・・・
またまた・・平家の落ち武者の件を聞いて驚きです。
何気ない表情で山を下る「こずえさん」には、
・・・・やっぱり・・・
あなたは「只者ではない」と感じてしまう私です。
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★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.3
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(3.仮説)・・・・・・・
二人から「親子熊」の話を聞いても驚かない
「こずえさん」に、驚きましたが・・・・
またまた・・平家の落ち武者の件を聞いて驚きです。
何気ない表情で山を下る「こずえさん」には、
・・・・やっぱり・・・
あなたは「只者ではない」と感じてしまう私です。
・
・
・
沼の横道を通り抜けるとまもなく登山道入り口・・・駐車場がまもなくです。
黙ったまま歩いていると・・
・
・
「やっぱり変ってる・・私!」
後ろを振り向いて話しかけてきました。
山を歩くには似合わない・・
色白で都会育ちのようなきゃしゃなお嬢さんが
微笑みながら語りかけてきます。
深くかぶった帽子も、首に巻いたネッカチーフも
薄化粧の似合った頬紅も・・・
この過酷な山歩きには、似合わないのです。
「ブナハリタケ」の木を切ろうとしたあの3人も、
仰天するのも無理が無いわ・・・・
こんなかわいい娘が・・・突然でてくるんですもの・・・
ちょっとおかしくなってきました。
ふふふふ・・・
・
・
・
「変ってるってこと・・」
「変ってる・・変ってる」と答えたかったのですが
言葉はうらはらに・・・
「なんでおじいちゃんが・・・そのことを調べたの」
「そうよね・・・
・
・
肝心なところがはっきりしないの・・」
「ふ〜ん・・」
「きっと・・資料などに書き残しておくと
不都合なことがあったのかな〜・・などと考えているの」
「何故かしら!」
「誰かに見られたときに・・困る・・・のかな?」
「誰かって・・奥さん・いやおばあちゃんのこと」
「いやそうではないでしょ」
「誰かしら・・おかあさんそれともこずえさんのこと」
「家族ではないと思うの」
「じゃ〜誰に見られたら困るの」
「うまく説明できないけど・・・・
このことをあまり知られたくなかったのかな〜」
・
・
・
「おばあちゃんは知っているの」
「知っているわ」
「じゃおばあちゃんが知っているんでは!」
「おばあちゃんに聞いたら・・・調べていたいるのはわかっているけど
俺の道楽だから・・・・・
どうも平家の落人にはいろいろ伝説があって・・・
俺の説も正しいと思うんだけど・・・など
詳しいことは言わないのよって
おばあちゃんもあのとおり・・・詮索しない人だから」
・
・
・
「なんか怖い話ね」
「いやだ・・そんな意味じゃ」
・
・
・
・
3人は登山道登り口の駐車場に到着しました。
帰りは「こずえさん」の、落人の話に終始して「ブナハリタケ」のことは、
忘れ去られたようでした。
駐車場には2台の車が残っているだけであとはもう帰ったようです。
空ももう日が陰ってきました。
水汲み場の水が勢いよく流れています。
雪解け水のようにとても冷たい水です。
「一杯飲んでく!」
相田さんが水飲み場に行ったので、
「私も!」続いていきました。
水は大きな塩ビ管から溢れんばかりに落ちてきます。
誰かが取り忘れたのでしょうか水槽の奥底に缶ジュースが
1本残されていました。
冷たい水に腕が痛くなってあきらめたのかもしれません。
「おいしい」
少し汗ばんだ体を一気に冷たい冷気がからだをかけめぐりました。
「伊藤さん・・こずえが夢中になってごめんね」
冷たい水をいただきながら娘のことをわびる相田さん
「そんな・・構わないのよ」
「もう・・そのことにのめりこむと・・・
そのことばかりなんだから」
「でも・・なんでこずえさんが
このことに夢中になるのか・・わからない」
「おじいちゃんの説を証明するって言ってるけど
それは本音ではないわ」
「じゃ・・なに!」
「わたしにも・・
おばあちゃんと何か企んでいるのかしら・・おかしな子ね」
「おかあさんと・・?」
「私よりこずえの味方だから・・本当のことは言わないの」
「あらら・・・仲間はずれ?」
「仲間はずれよ・・フフフフ」
「ふふふふ・・」
・
・
・
「伊藤さん・・続き聞いてくれる・・?」
車が平坦なところにくると、こずえさんに運転の余裕がでたのか・・
再び落人の話の続きのようです。
あんまり深入りしたくないような話題ですが・・
・・・・仕方ないか・・・
「こずえさん」だからな
・
・
・
「どうも・・ことの発端は、風土病を調べに行った時の
ことだったと思うの」
「風土病のこと!・・」
「資料に葛城(かつらぎ)さん・・・という言葉が出ている部分が
あるので・・・・・・・・調べたの・・」
「調べるって・・どのように」
「おばあちゃんに聞いたの」
そうか二人はタッグマッチだからな・・
こずえさんとおばあちゃんは一心同体みたいなもんなんだな・・
「それで・・」
「おじいちゃんのお葬式の参列者の名簿の中に・・
葛城さんという名前があるというの
おばあちゃんもよく知らない人で・・・
研究仲間かと思ってたみたい」
じゃ〜二人は葛城さんのこともいろいろと調査すみかな
・
・
案の定
「葛城さん宅へ行って見たの」
やっぱり・・おばあちゃんも行ったのかな
「おばあちゃんといったのよ」
やっぱり・・・
なんか勘が・・よくなってきたみたい
「葛城さん宅って・・奈良か京都では・・」
「いいえ・・鎌倉よ」
鎌倉か・・・でも近かった・・うう・・惜しい・・もうすこしだった
「門構えのある立派なお家では?」
「そう・・立派なお家・・なんでわかったの伊藤さん?」
「なんとなく・・立派そうな名前だし」
・
・
・
「おじいちゃんは葛城さん宅へ何度か行っていたの」
「この件とかかわりがあったのね・・葛城さんは」
「葛城さんの話を聞くと・・
葛城さんのお父さんのところにおじいちゃんが伺って・・
・
・
・
山形か秋田のほうで「ツツガムシ病」かなんかを
山へ入ったりして調べていたときに・・
地元の人から平家の落人の話を聞いたみたいで・・・
昔は大分財宝探しで山に人が入ったようだとか言っていたの
でも誰も見つけられなくて・・・
そのうちウワサ話ということになったそうなの
・・・歴史などに興味があった父は、山形や秋田へ行った時など
いろいろ調べていたの・・
調べるって言っても・・特別なことではなく・・本当に素人の
域をでない調べ方だったと思うわ・・
あるとき、県や市町村の人たちを案内したことがある
地元の山の人から東京のほうから来た人も案内したと・・
葛城さんを教えてもらったのよ
その人は村に行ったら
わしのところに行ってみて案内してもらったらと紹介されてきた
と・・・
葛城さんは、数人で2日ぐらい山を歩いたらしいの
やっぱり何も見つからないで帰ったと・・・
・・・都会の人に山歩けって・・・むりだば・・
おじいちゃんは早速葛城さんのところに行って・・・」
「行ったのね・・おじいちゃん
それからどうしたの・・・」
「・・それから・・・」
「それから・・・」
思わず・・相田さんが声を出しました
相田さん・・やっぱり仲間はずれだ
・
・
・
車は林道を出て一般道に出ました。
舗装道路の静かなところを走ります。
樹木はもう大分に色づいてきました。・・・
まもなく「みちのくの紅葉」が始まろうとしている山道でした。
先頭に戻る
★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.4
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(4.仮説)・・・・・・・
「・・それから・・・」
「それから・・・」
思わず・・相田さんが声を出しました
相田さん・・やっぱり仲間はずれだ
・
・
・
車は林道を出て一般道に出ました。
舗装道路の静かなところを走ります。
樹木はもう大分に色づいてきました。・・・
まもなく「みちのくの紅葉」が始まろうとしている山道でした。
・
・
・
「それから・・・おじいちゃんは資料を取り出して・・・
・・・「葛城さん私は平家の落人について
個人でいろいろ調べている者です・・」
そういいながら・・・葛城の前に自分の分厚い資料を
押し出しました。
・・「葛城さんもこの件に関して
お調べになっているようですが・・・」
「失礼・・拝見させてください」
葛城は分厚い資料を手にとって何枚かみていたが・・
葛城は相田をじっとみつめて・・
「相田さん・・・いろいろ調べたようですが
なぜ・・・お調べになるのですか
大変でしょう・・・」
・
・
・
「歴史に興味がありましてな・・・
研究の傍ら・いろいろ調べたりしているんです
学生のころ・・・きのこの食中毒らしいことがあって
友達に頼まれて新潟のほうに行き・・・山に入ったのが
きのことの付き合いの始まりで・・・
各地の山に行ったりしているとき・・・・
秋田で平家の落人の話を聞きまして・・・
湯沢の奥の「秋の宮」に行き、山形や宮城でも
そんな話があるということで、
始めは興味本位で調べていましたが・・・
この伝説は・・・書き物には一切なくて・・・
地元の人の言い伝えぐらいしかなかったのですが・・
それも昭和の始めごろには誰も口にしなくなって
忘れ去られたようでした。
私が興味を抱いたのは・・・
何故都から遠く離れた・・奥州の奥地へ逃げた
落人を・・・源頼朝がそこまで執念深く
追い求めたか・・です。
・・・何故でしょう・・・
そういいながら
相田は葛城の表情をじっと見て・・
・・あなたは知っているんではありませんか・・
そのような眼差しでみつめた
・
・
通された部屋は洋室の12畳位の部屋で・・・
客間用に利用されているのかきれいに整理されていて
おきなテーブルと何種類かの洋酒瓶が並べられている
作り付けの棚があるだけのすっきりとした造りでした。
天井や壁は漆喰で塗ったものなのか・・白い塗り壁の
ようになっています。
床はつやつやと磨かれた松やさくらでできた市松模様の
床で・・よく手入れがされているようです。
・
・
出されたお茶を飲みながら
・
気になりまして・・・
・
・
性分ですかね・・・・
自分の納得するするまで調べてみようと思ったんです。
ずいぶん調べたりしていたときに・・
相田さんのお名前をお聞きしまして・
ここまで調べに来られるとは・・・
何か情報をお教えいただければと思いまして・・
・
・
そういいながら葛城の顔の表情を見ました。
年齢は自分と同じくらいかちょっと下なのか
髪には自分にも最近目につき始めた白いものが混じって見えます。
色白で西洋風のしゃれたメガネをかけ
いかにも学者肌のように見えました。
・
・
「そうですか・・
私も・・相田さんと同じようなものですが・・」
分厚い資料をテーブルの上に戻して
葛城は同じようにお茶を口にして
・
・
私は大学で考古学を教えていますが
古典も研究しているんです。
特に「平家物語」「源氏物語」など書物に関する内容や
その作家、登場人物について調べたりしてまして・・
歴史から学ぶことは実に多いもので・・
昔の人たちの生き様を学ぶことは現代の人たちにも
非常にためになることなのです。
・
・
・・相田は頭を上下にふりながら
全くそのとおりですと合図をおくります・・・
・
・
ある雑誌に「平家物語」の、私から見た解釈を
出したことがあるんです。
・・・もうずいぶん昔のことですが・・・
雑誌に出してから半年もたったころ編集社の担当の方から
連絡があって・・・雑誌を見られた読者の方で・・
私に会いたいって言う人がいるというんでどうしますかというんですね・・
私がいいよというと・・2〜3日後ぐらいに男の人が
尋ねてこられて、その人の案内で・・
料亭のようなところに行ったんです。
・
・
葛城は昔を思い起こすかのように・・
窓辺の方をむき暗くなりかけた外を眺めて・・
ゆっくりと相田の方に向きなおすと
残りのお茶を飲み干し・・・
・
・
その料亭は街の中から少し入った林に囲まれたところにありました。
そんなところには行ったことも無い私ですので、躊躇してますと
男の人が
「先生遠慮なさらずに・・どうぞ」といって仲居さんのあとを
つくように促しますので・・・
長い廊下を庭を眺めながら歩いていきました・・
ある部屋の前に来ると廊下から仲居さんが、
「お客さまがお着きになりました」と声をかけると
和服を着た女将さんらしき人が・・・
「ごくろうさま・・・先生どうぞ」といいます。
8畳の洒落た和風造りの一室の中には一人の方がいました。
「お邪魔します・・・葛城です」
「どうぞどうぞ・・・」
・
・
「先生の記事を読まさせていただきました
なかなか興味のある解釈でしたね」
・
・
座るなり挨拶も交わす前にその人は語りかけてきたのです
・
・
「特に清盛が・・
判断ミスで源氏に敗れるというくだりは・・・
その解釈がよかったです。」
「先生の解釈は・・・
全体的に負けた平家の反省色の強いものになっているようですが」
「平家に対する思い入れでも・・」
「いえいえ・・そうではありません」
「そうですか」
・
・
初老のその方は、私の解釈の意味や・・
あのときは先生だったら・・・どのようにしますか・・
など・・源平合戦のさまざまな場面を引き合いに出して
語られたので・・・・
・
・
解釈の意見交換でもと思っていましたら・・
「ところで・・先生・・」
初老の方は・・盃の酒を膳の片隅に手で押しやると
真剣な目付で私に語りかけてきたのです。
「平家のその後は・・・
お調べですか・・・・」
「平家のその後?・・」
「そうです・・」
「と・・」
「戦いに敗れた平家のその後ですが・・」
「記録に残っているものしか調べていませんが・・」
「そうですか・」
・
・
初老のかたは・・仕方がないなという風に・・
また盃を手にしますと
側にいた女将さんらしき人が・・・
「首藤さん・・お注ぎします」といってお銚子をとると
「おう・・もう少しいただくか」
「首藤」と呼ばれた初老の方は・・
「女将・・・葛城さんにも・・」
・
・
・
「先生・・すみませんな
一方的に話ばかりしまして・・・首藤と申します。」
そういって盃を上げたので・・あわてて葛城も盃を上げると
「先生・・・私は小さな会社をやってますが
この平家のことに・・・興味がありましてな」
「そうですか」
「たまたま・・先生の記事を読まさせていただいたときに
何故か・・・・先生にお会いしたくなりまして・・」
「これぐらい平家のことを書かれているんだったら
その後のことも・・・調べられているかもと思いまして・・」
「すみませんでした。がっかりさせましたか」
「いやいや・・そんなことはありませんよ
いろいろお聞かせいただいて・・・・
とても勉強になりました。ありがとうございます」
・
・
・
その日は・・・それで帰ってきたのですが・・
一ケ月も経ったころ・・以前尋ねてこられた男の人が
自宅の玄関前に 立っておられて・・・・
私を待っておられたようです
・
・
・
「先生・・この間はどうもありがとうございました。」
「いえいえ・・こちらこそ
いろいろ意見を交換させていただきまして・・」
その男の人は首藤さんよりは少し若く
実直な執事さんのように見えました。
背広をきちっと着こなし・・礼儀正しい態度で話してくれます。
「首藤さんはお元気ですか・・」
「は〜それなんですが!」
「ご病気でも!」
「ちょっとここ一週間ぐらい前から・・
体調を崩して床に伏していましてナ」
「あれ・・それは大変・・
具合の方はいかがですか」
「ま〜なんとか」
「だったら良かったです」
「は〜・・ありがとうございます」
「で・・今日はなにか・・ご用事でも!」
「首藤が・・先生にお願い事があるって言いまして・・
都合がついたときに来ていただければと申してまして・・」
「私にお願い事!」
「そう申してますが・・ご都合はいかがでしょうか」
「お願い事ですか?」
全く見当のつかない申し出に困惑してしまう葛城でした。
・
・
・
・
相田さんの家に着いてからも、
「こずえ」さんは、おじいちゃんの資料を見せてあげるからって・・
仕方なく相田さんの家に上がりこんで、
話の続きを聞くことになったのです
・
・
・
「まあ〜まあ〜
お茶でも飲んで・・・」
おばあちゃんが、お茶を運んできてくれました。
初めてお会いするおばあちゃんですが、
びっくりするぐらいの「こずえ」さん似のおばあちゃんです。
「おかあさん・・・
鎌倉に行くって・・・・このことだったのね
もう・・こずえと二人で!」
「だっておかあさん・・
このこと話すと・・無駄遣いって許さないもの
ねえ〜おばあちゃん・・・」
「お話は少しで後はゆっくりこずえと二人
鎌倉見物だったよね」
「どうだか・・あやしいわ
伊藤さん・・どう思うこの二人」
いやだわ・・急にこっちにふって
話もややっこしいけど・・・家庭もややっこしいのは・・
・
・
・
「私には・・・難しすぎて
ついていけないわ」
「そうでしょう・・
二人とも・・・止めたら」
「駄目よ・・伊藤さん
母の味方になっては」
「ほ〜ら・・・弱音を吐いて
こっちも二人だから2対2よ!負けないからね」
「お母さんこそ・・・邪魔しては駄目なんだから」
「じゃ続けるかどうか・・ここで決める!」
「どうやって」
「決まってるでしょ」
・
・
あ〜あ〜二人ともむきになって
どうやって決めるとでも言うのかな
「決まってるって!」
・
・
「じゃんけんよ!」
「じゃんけん!」
3人とも驚いてましたが・・・
ふっと噴出してしまいました。
笑い声が一人・・二人・・・三人
しまいには全員で笑い出しました。
・
・
・
真っ暗になった窓には4人で笑う影が映っていました。
・
・
先頭に戻る
★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.5
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(5.仮説)・・・・・・・
「じゃんけんよ!」
「じゃんけん!」
3人とも驚いてましたが・・・
ふっと噴出してしまいました。
笑い声が一人・・二人・・・三人
しまいには全員で笑い出しました。
・
・
・
真っ暗になった窓には4人で笑う影が映っていました。
・
・
「私にお願い事!」
「そう申してますが・・ご都合はいかがでしょうか」
「お願い事ですか?」
全く見当のつかない申し出に困惑してしまう葛城でした。
・
・
首藤の病気見舞いのときにその返事をさせていただくこととし
即答を避けて4〜5日考えることにしました
執事いや運転手さんは、
「どうぞよろしくお願いします・・
じゃ〜4〜5日後にお迎えに上がりますので・・・」
挨拶をして帰りました
一度だけ会った人から「お願い事って」・・・・
あのときの会話や情景を思い浮かべながらさて・・・
大きく息を吸い込むと・・冷たい冷気が口いっぱいになりました。
もう師走か・・
灰色の雲が寒そうに地上を覆っています
ま〜いいか!
行った時に決めれば
そう考えが決まると・・大学の用事を思い起こして急いで
うちの中に駆け込みました。
・
・
・
時計を見るとまもなく10時になります。
早いものであれから5日たってしまいました
日曜のラジオの音楽を聴きながら準備してますと見覚えのある黒塗りの
車が路地を曲がってこちらに向かってくるのが2階の窓から見えました
「来たな執事さん」
階段を下りると妻の美恵子がいて
「気をつけてくださいよ」
「何に!」
ぶっきらぼうに答えると
「一度会っただけで何か頼まれるなんて・・
心配で・・・」
そういえば家族のことを自分のことのようにいつも心配ばかりしている妻を
葛城は「心配性なんだな・・」と思ったり・・「家族思い」と感謝したりしていました。
「大丈夫だよ・・首藤さんはそのようなことをする人ではないから」
「はい・・・そうお願いしていますから」
「じゃ〜行ってくるから」
玄関先へ出た妻に手を軽く上げて、
「いや〜すみません・・わざわざおこしいただいて」
「い〜えどうぞ・・お乗りください」
車は静かに家を離れました。
・
・
「今日は朝冷たかったけれど・・・
暖かいいい天気になりそうですね」
「天気が良いことは気持ちも明るくなりますね」
車では天気のことなど差し障りの無い話題を二人は話をしていました
ここ数日は雲が垂れ込めたうっとうしい冬空だったのに
良い天気に恵まれました。
あまり車で町を走ったことが無いので・・・
どこを走っているのかよく分りませんでした。
・
・
「どちらまで行かれるんですか?」
「葉山です」
「葉山・・ですか」
「はい」
「病院はどちらですか・・」
「病院ではありません・・ご自宅です」
「自宅・・
では退院されたのですか!」
「自宅の方に戻られて療養されてますので・・」
「そうですか・・ご自宅に戻られて
でも良くなったんですね」
「はあ〜そうだとうれしいですけど」
「良くなってないんですか」
「よくはなってはきていると思うんですけど
突然・・・また悪くなったりですから・・」
「病気は何ですか」
「内臓・・腎臓か肝臓の方と聞いてますが・・
詳しいことは分らないんです」
「そうですか」
・・・・・・・車の外は明るく久しぶりの晴天に町行く人も
心なしか楽しそうに見えました・・・・・・
・
・
・
車は、海の見えるところにきました。
「まもなくです・・」
葉山へはときどき海水浴に来ていたので馴染みの土地柄でした。
大きな松の木が数本ならんでいるところを右に曲がりました。
車は大きな白い建物の門の前で停車して・・・
呼び鈴のようなものを押すと中から割烹着をつけたおばさんが来て
門を開けてくれました。
・
・
「白戸さん・・早かったね」
「あ〜思ったより車が少なくて・・・休みだからかな
会長は・・・」
運転士さんいや執事さんは「白戸」さんと呼ぶようです
白戸さんは首藤さんを始めて会長と呼びました。
門構えも立派ですが、建物もとても大きくとても個人の家とは思えません
・
・
「今日は体の調子がよさそうで・・・
起きて庭を見たりしているよ」
「それはよかった・・ではお客様をお連れするから会長につたえて」
「はいはい・・
おきゃくさまどうぞ」
車は門の外に停めて、二人は玄関の方に歩いていきました。
通路の両側には手入れの行き届いたつつじが円く刈り込まれています。
ところどころに芝が植えられ・・手ごろな大きに樹木も剪定されていました。
・
・
玄関というより旅館の入り口のように大きなガラス戸が数枚あります。
真ん中の引き戸を開けて中へ入りました。
玄関の框も欅の瘤の大きなものが表(あらわし)しで仕上げてあります。
土間は黒い石のようなものでできていて趣のある佇まいになっています。
大きさや品のよさに見とれていますと・・
たよりげの無い足取りが聞こえてきます。
先ほどのおばさんが「会長さん気をつけて・・・大丈夫!」といっしょに
歩いて見えました。
・
・
数か月前よりも大分やせて見えました。
和服を着て杖を持っています。
「やあ〜葛城さん
わざわざお呼び出しまして申し訳ありません
ちょっと病気なもんですから・・こちらから伺うことができなくて・・」
「いえいえ・・・お気になさらないでください
天気もよく・・外の空気をゆっくり吸うにはよかったんですから」
通されたところは居間か洋室に続く広縁のようなところでそれでも7.5畳の広さでした
ちょうど庭が見えて・・応接間に利用されているようでした
・
・
4人掛けの丸テーブルで籐の椅子に座ると
「葛城先生・・」
首藤さんは私を先生と呼びました。
「あれから・・何度と無く先生の書物を読みまして・・・」
「ありがとうございます・・拙い文ですが」
「いやいや・・えらく感じるものがありましてな」
「そうですか」
「特に・・・平家物語の解釈については・・・」
「あれですか」
「先生の文は・・・平家のかたを持っておるようにも見えましたが」
「いやいや・・ほんのちょっとのことで歴史は変るもんですね
あのとき・・こうしていればとか考えるんですね」
「ふふふ・・弱いものに味方する・・ですか」
・
・
庭の方を見つめていると
「・・・ところで・・先生お願い事なんですが」
・
・
・
外はもう真っ暗です
こずえさんの話は続きます
おばあちゃんも輪の中に入って、いやそうではなくこう言ったのよ・・・
ほらおじいちゃんのところにこうかいてあるでしょ
おばあちゃんこういったのよ・・
にぎやかです
・
・
・
相田さんも二人に観念したのか大人しく聞いています。
”本当にこんな話なの”なんか面白おかしく戯曲しているんでは・・などと
・
・
夕食はみんなでいただき
食べた後に今度はコーヒーをいただきながらの解説を
聞くことになりました。
・
・
面倒な話だけど・・・聞くと少し面白いし・・・
食事もご馳走になったし・・・大好きなコーヒーもでることだし
うん・・うん・・・もう少しだけお付き合いするか
「お願い事も・・・聞いて見たいし」
・
先頭に戻る
★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.6
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(6.仮説)・・・・・・・
面倒な話だけど・・・聞くと少し面白いし・・・
食事もご馳走になったし・・・大好きなコーヒーもでることだし
うん・・うん・・・もう少しだけお付き合いするか
「お願い事も・・・聞いて見たいし」
・
・
・・・・・・・・・・・
朝早くうちに集合です。
2〜3日前は雨で天候が危ぶまれましたが、今日の天気予報は
秋晴れの晴天です。
田山さんは6時ごろに来ました。
山の仕事をしているためか、4輪駆動のウインチ付きの車です
バルンバルン・・・ダダダダ・・・・ブルブル・・・
大きな音を出して止まりました。
バタン・・ドアーの開閉も無造作に開け閉めです
一度乗せてもらったときなんかも、皆で大声で叫んでいました。
すると平気な顔で・・
「これは、遊園地の絶叫マシンでないんだけど・・!」
「田山さん絶叫マシンの方が安心よ
だって絶対脱輪とか転覆とか事故おこさなもの」
「これだって大丈夫よ・・」
「ほんと!
だってさっきは・・・
キャ〜・・・・危ない!」
まず無理ばっかりするんです
「あれ!ここ通れなくなってる!」
よく見ると林道の片側ががけ崩れで半分ぐらい谷底へ
落ちて行ってるのです。
軽自動車でも無理です
もうここから引き返すしか方法が無いと思えましたが
田山さんはなんとも思っていないようです
山側の崖を見つめてると、
「行けるな!」
「さ〜乗って乗って」
「乗ってって!」
「行くよ」
「えっ・・」
皆で顔を見合わせて・・
「駄目よ通れないから
危ないから」
「危ない・・・」
女3人は田山さんを引きとめようとしますと
「何だ怖いのか」
「大丈夫だから・・・
俺は車でここを通るから・・皆は歩いてきて」
「田山さん・・・危ないから止めて」
もう車に乗った田山さんは意見を聞くはずもありません
崖の崩れたところから少しだけバックすると山側の土砂の斜面に
車を乗り上げて・・・進み始めるのです
「危ない・・・・」
みんなは固唾を呑んでみまもっている中車は斜めになったまま
なんと斜面を進んでいくのです。
まるで斜面に吸い付いているように見えました
曲芸みたいな車の進み具合です。
田山さんはあまり心配していないのか少し斜めになった体を
窮屈そうにハンドルを握り締めてます
4mぐらいの崖崩れの道をことも無く渡ってしまったのです。
「大丈夫田山さん」
「怖くなかったの」
「いやいやびっくりした・・おっかないごと」
みんなが口々にいいますと
「山の木を切る現場ではもっと急斜面を走るから・・
これぐらいどうってことないから」
といたって平気です
「車は45度の角度までは、横転しないから
45度っていったら凄いからね」
とかいっているのです
ある場所に来ると今度も同じような場所がありました。
今度は地面が山側まで1mぐらい亀裂が入っていました。
今度こそは引き返すというのかと思ったら
「あらら・・・もう少しなんだけど
めんどうだこと」
「みんなここでまってて・・・」
そういうと山の中へ入っていってしまいました
「まずおっかないこと
・・・・・かえっぺわ」
名人がいうので私たちも
「帰ることにしよう」という意見に大賛成
みんなの意見がまとまったので、田山さんが来たら
そういうつもりでしたが・・・・
田山さんは山へはいっていって
大きな丸太を2本持ってきたのです
「田山さんどうするの」
「丸太橋を作って渡るの」
「丸太橋!」
「もう少しだから・・」
「田山さんあまり無理しないで・・・別のところに行ったら」
「無理でないよ・・すぐ終わるから
ちょっとまってて」
その手際よさはやっぱりきこりです
あっという間に丸太橋ができてしまいました
でもこの丸太橋は田山さんにしか渡れない丸太橋です
他の人はぜったい渡ることはできません
そんな勇気もありませんし・・・またそこまでして渡る人もいません
あるときは増水した川を渡ることになりました
このときもみんなで反対しましたが
反対を受けると特に勇気が湧く人のようで
必ずやってしまうのです。
でもこのときは川の水が多いため車から降りて
歩いてわたることはできないため・・・
こわごわみんなは車に乗って渡る羽目になってしまったのです
このときのやり方は車が川の途中で止まったら終わりだから
車の勢いで渡りきるというのです。
始めに田山さんが川の深さや流れの強さを確かめてました
腰よりやや低いぐらいですが川の流れが強くて
とてもとても渡れそうに無いのです
でも反対しても意味が無いので田山さんに任せるしかありません
田山さんには「撤退」や「中止」という言葉は無いのかもしれません
車は川の手前10mぐらい間でバックして、勢いをつけて
川をめがけて突進していくのです。
まったく無謀きわまりの無い行為です
同乗していることをとても後悔してしまいました。
車は川に入ったとたんにザッブンと大きな音を出しました
一瞬スペードがガクンと落ちました。
フロントガラスに大きな水しぶきが掛かり
一瞬前が全く見えなくなりました。
「だめだ・・・失敗」
みんなは前のめりになり前の方に飛び出しそうになりました。
川底の岩かなんかにタイヤが乗り上げたのでしょうか
または流れに流されたのか大きく左右にゆれて
後ろが水に流されたようでした。
「流される・・・」
でもああ〜何と丈夫な車なんでしょうか
持ち直してあっという間に向こう岸についてしまい
川から上陸したのです。
車内には水が入りましたがわずかばかりです。
エンジンも動いているのです。
「やっぱし重い車体のデーゼルエンジンは強いな」
田山さんはみんなの不安などどこ吹く風で・・
得意げのように見えました
このときはとても恐ろしかったのです。
生きた心地がしないというのはこのようなことを指すのかもしれません。
常識を外れた無茶な人です。
でも田山さんはみなこれ以上のことを経験実践済みだから・・・
みんなを危険な目に合わせているという実感は全く無いのです。
困った人だこと
・・苦笑しかありませんでした・・・
これからは
絶対に田山さんの車には乗らないとみんなで決めたのです。
・
・
・
でも今日は・・田山さんの運転による山行きなので
・・不・・・・不安なのです
彼女らがいるので遠慮して無茶をしないように
祈るだけなのですが・・・
こんな気持ちが通じる「山男」でしょうか・・
・
・
・
名人とお茶を飲みながら
「変った仕事で・・
こんなんで金もらっていいのかな!」
「田山さんでなきゃ・・この仕事はダメだね」
「平家の落人の隠れが探しだよ・・
わかるかな〜」
「ほら昔・・・新聞に載ってたっちゃ」
「あそこに行ったことあるもの
・・・ただの原っぱだよ・・・今は」
「何を手がかりにいくのっしや」
「沼のあるところ・・・
薬草のあるところ・・・・
断崖のような崖のあるところだって」
「沼ね!」
「あっちこっちにあるから
大きさとかは違うけど」
・
・
・
「田山さん・・おはようございます
朝早くから・・・よろしくお願いします」
「大丈夫なの山歩き」
「大丈夫よあの二人は・・・
問題は私・・・大丈夫かな」
「今日は銀山から小野田そして宮崎までの
最上街道を中心に歩くけど」
「最上街道!」
「昔の街道・・・・今は小さな林道が残ってるだけ」
「街道から心当たりのところにそれるからね」
「どのぐらい時間かかるの」
「一日」
「一日ね」
「その次は・・封人の家から・・・赤倉の方へ
そして3日目は」
「3日目は・・!」
「鳴子の奥から宮崎の方へ出る道」
「道はあるの」
「車で途中まで行ってそこから歩き
大体みな1〜2日コースだね」
「大変・・・
そこまでしてやることかな・・?」
「お金持ちは考えていることが・・
ちがうから・・・わからん
2日目から俺の先生も加わるから」
「先生・・」
「鉄砲うちの先生さ・・・
マイタケ採りの名人
この辺の山は全部知ってるから」
・
・
・
そうこうと話をしていると
「おはようございます」
こずえさんの声・・明るく元気があり張り切っているようです
「伊藤さんおはよう」
相田さんの声もしました。
二人とも秋晴れの天気のように晴れ晴れとした声です。
「おっ来た来た
お嬢さんと奥様が・・・・
さ〜行くとするか」
田山さんが腰を上げました。
・
・
・
いよいよ・・探検?・・いや違うな調査?
お遊び・・?いや違うな
・
・
・
・
「・・・ところで・・先生お願い事なんですが」
の首藤の言葉に
葛城はすぐに
「お願い事ですか」
と確かめるように聞き返すと
首藤は、弱弱しく首を振り
是非頼みたいという素振りを見せました。
・
・
「お願い事というのは・・
先生に平家の落ち武者のその後を調べていただきたいと思って」
「落ち武者のその後・・
あの私は・・」
「はいはい・・この間もお伺いしましたが
文献以上のことはお調べになってないということでしたな」
「そのとおりですから・・・お役には」
「先生の平家物語の解釈、考え方などについて
または他の資料などにも目を通させていただきましたが・・
なかなか興味を引きました」
「はあ〜そうですか」
「そのような目で・・・その後の落ち武者の生き様を・・・と思いまして」
「私にできますでしょうか・・・それに
私には・・大学での仕事もありますし」
「もちろん先生には大学でのお仕事が最優先ですよ
急ぎませんから・・・時間の空いたときだけお調べいただくだけでも」
「そんなんでよろしいんですか」
「いいんですよ・・・気の向いたときだけでも構いませんから
調査費としてわずかばかりですけど私の運営する
財団の方から2年間に亘ってお出しさせてください」
「調査費を2年間もですか」
「期間にはこだわらないんですけど
ま〜2年位の期間があれば・・・先生さえ良ければ」
「首藤さんの目的は何でしょうか
私なんかに調査費まで出して・・・」
「葛城先生は平家に対する考え方が他の人とは少し違うように
思いますし・・鋭く見つめてますから・・何かがつかめるかもと・・」
「何かが・・?」
・
・
・
「そうなのよ・・・」
「源氏が奥州まで平家の落人をくまなく探すには
理由があったのよ」
こずえさんは、真顔になってみんなを見つめるのです。
相田さん、私、おばあちゃん・・・
いい・・ここから重要だからねっといわんばかりです
「理由があったのよ」
・
・
・
もういちどそう言うと遠くを見つめるような眼差しになりました。
・
・
さっきからコーヒーは2度もお代わりをしてしまいました
時間は更に遅くなってきています。
でも話はますますこれから重要な展開に
なりそうな雰囲気になってきました 。
先頭に戻る
★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.7
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(7.仮説)・・・・・・・
「理由があったのよ」
・
・
・
もういちどそう言うと遠くを見つめるような眼差しになりました。
・
・
さっきからコーヒーは2度もお代わりをしてしまいました
時間は更に遅くなってきています。
でも話はますますこれから重要な展開に
なりそうな雰囲気になってきました 。
・
・
・
・
「理由ね」
こずえさんはみんなをもう一度見直すと
しっかり聞いてねと言わんばかりにゆっくりと語り始めました。
「葛城先生は平家に対する考え方が他の人とは少し違うように
思いますし・・鋭く見つめてますから・・何かがつかめるかもと・・」
「何かが・・?」
・
・
「首藤さんは葛城さんにそのとき
和歌山で自害したとされている平惟盛が実際は落ち武者に紛れ込んで
逃げた・・・
その真実がわかれば・・・と言ったのよ」
「平惟盛(たいらのこれもり)?・・何者なの」
「伊藤さん・・・わからない!」
「さっぱり・・歴史は好きなんだけど・・!
平清盛以外はわからないのよ」
「平惟盛は清盛の孫で・・・
書き物には源氏物語の光源氏のような
美男子ということになってるの」
「じゃー腕力は無いわけね
美男子・・力と金は・・・っていうじゃない」
「腕力は無いけど知力はあったらしいの
若くして清盛から地位を授けられた人よ」
「あ〜〜また天は2物を与えるんだから
そのような人は一つぐらい欠けたほうが人生うまく行くんだから
きっと失敗したんでしょうね」
「清盛に応えて手柄を立てたこともあったけど
失敗もあったの」
「それでいいのよ
失敗しなくちゃ・・・凡人に悪いわ」
「でも・・家来などには人望があって
平家を継ぐのは惟盛って言われた時期もあったのよ」
「その惟盛が・・・どうしたの」
・
・
・
首藤はゴホゴホと咳き込んだ。
「大丈夫ですか」
「いやいや、大丈夫です」
大きく息を吸うと
「葛城さんにこの調査をお願いしたいんです
いやいや・・・・・もう相当年月が経っているので
わからないと存じますが・・・それはそれで構いませんから」
「皆さんがもうお調べになってもわからないことが
私にできますでしょうか?」
「そう深く考えておやりにならなくても・・・
葛城さんの見かたに心腹しまして・・・
・・・真実がわからなくても・・」
どうも困った
葛城は思案していました。
妻にも安易に物事を受けないようにと言われてるし
それに調査費もいただくとなると・・・
「首藤さん・・
ちょっと自信が無いので考えさせてください
また調査費などをいただくと・・・荷が重いですね」
「まあまあ〜
じっくりお考えになって結構ですよ
急ぎませんから・・・
調査費といってもわずかばかりで旅費の足しになるぐらいですから」
また二人は窓の外を眺めた。
桜の葉は赤くなってまもなく落ちんとしています
鳥が飛んできて尾を2〜3度振ってまた飛んでいきました。
「そうですか
惟盛のその後をですね・・・」
・
・
・
「こちらで今まで調べた情報も全て先生にお出ししますので
その情報を洗い直すだけでも相当かかるでしょうな・・・」
「情報をお持ちで!・・」
「相当昔からの情報ですので・・・・お役に立つかどうか」
「是非拝見したいですね」
「よろしいですよ・・いつでもおっしゃってください」
・
・
葛城はその場では、調査の件を受けませんでした。
後日資料を拝見させていただいた上でお受けするかどうかを
返事させていただくことになりました。
「惟盛が・・どこに行ったか
その後どうしたのか・・・・」
葛城には、ある心積もりがありました。
大学の中に有能な人物がいるのです。
彼に調査をさせよう。
もともと葛城の論文は彼の考えを取り入れた部分が結構あったのです。
彼ならできるかも・・
首藤さんの期待にも応えられるかも
資料を取り寄せて、彼に見せて意見を聞くことにしよう
・
・
・
「おかあさん・・・彼って誰か知ってるでしょ」
「なによ!突然」
「エッなに・・・相田さん知っている人」
「おかあさん・・白状しなさい
ねえ〜おばあちゃん おかあさんて知らん振りしてるの」
「ホホホ」
「やな娘(こ)ね!」
「なになに・・・どうしたの」
「おじいちゃんが彼を気に入って
おかあさんと結婚させようとしたのよ」
「え〜それじゃ・・・あの・・」
「こずえったら話が飛び飛びじゃないの」
「・・・だって・・本当のことなんだもん」
・
・
・
・
「先生・・おもしろそうですね」
「そうかね、やれるかね」
「真実は掴めるかどうかはわかりませんが・・・
興味はあります」
「私が受けたらやってくれるかね」
「先生、是非やらさせてください」
資料は各地の落ち武者の言い伝えが書き記されたものだった
二人は資料を見ながら興奮するのを覚えた
「落ち武者のその後を調べることは
惟盛のその後を調べることになり・・・
いろいろ推測されている惟盛の実像がもっと鮮明になるぞ」
「平家の落ち武者の中に平惟盛がいては源氏は
枕を高くして眠れませんからね・・・
全国の落ち武者を隈なく探させた訳もつじつまが合いますね」
「いたのかな」
「どうでしょうか」
「やるか」
「やってみましょ」
まもなく葛城は首藤に調査の依頼を受けることにしたと連絡しました。
首藤はとても喜んでくれて、
「よかったよかった・・ありがとう」
もう事実が判明したかのような喜びようでした
葛城は彼に資料をわたし、調査費も彼の自由にさせた。
・
・
・
・
「相田さんそのようなことなのです
もうあれからずいぶんとたちましたが」
「それで・・調査の方は」
「彼がある仮説を立てたのです」
「仮説とは・・!」
「ま〜彼を紹介しますから・・
相田さんの調査内容も彼はおききしたいことでしょう
・・・彼と会ってください」
・
・
・
車には私が前で後ろに相田さん、こずえさんが乗りました。
いよいよ出発です。
「田山さんお願いします」
こずえさんが言いますと、田山さんは
「はい・・こちらこそよろしく」と挨拶です。
こずえさんに対する田山さんの言葉は
なんとなく主従関係のような挨拶に聞こえるから不思議です
今日は無茶坊主も・・・大人しくするかな・・
そう思うと少しおかしくなりました。・・・
うふふふふ・・・
「何かおかしいの、伊藤さん」
「いやいやこのへんてこりんな組み合わせがおかしいいのよ」
「何か変」
(だって・・・田山さんが神妙だから)と言おうとしましたが
「変じゃないか」
「変じゃない!」
こずえさんが言いますと
「そうですよね・・」
と田山さんがまた神妙に言うので余計おかしくなりました
・
・
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★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.8
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(8.仮説)・・・・・・・
「何か変」
(だって・・・田山さんが神妙だから)と言おうとしましたが
「変じゃないか」
「変じゃない!」
こずえさんが言いますと
「そうですよね・・」
と田山さんがまた神妙に言うので余計おかしくなりました
・
・
・
彼は小一時間ほどで、葛城邸に来ました。
「先生・・・まいりました」
「おう・・河野君
悪かったね急に呼び出して・・
いや〜助かったよ・・・来てくれて」
「相田さん、河野君と申します
なかなか真面目な男でね、大学では私の手伝いを
してくれたりしているんです」
「はじめまして、河野です」
「相田です、よろしくお願いします」
河野と呼ぶ若い男は、日に焼けて逞しく古典や
考古学等とは無縁な感じがし
頭はやや髪の毛を伸ばし、目鼻立ちがしっかりし口元の
ホクロが印象的だった
「河野君、相田さんはひょんなことから、
平家の落ち武者の過去を調べて・・研究されている方なんです」
「そうですか・・お一人で!」
「いや〜凝り性でね
なんかひっかかることがあって・・・
困った性分でして、何のためにもならないんだけど」
「でもそれはすごいですよ
そこまで、やられるかたはいませんから」
「半分馬鹿なんだね・・・ハッハッハッハッ」
河野と呼ばれた彼は、相田の資料を眺めながら
「この資料お貸しいただけませんか」
「おお、いいですよ
どうぞご自由に」
「相田さんはお調べになられて・・
何が気になりましたか」
「先ほども葛城さんに話しましたが、
何故源氏が頼朝がそこまで平家の落ち武者を
捜し求めたかが・・・・・気になりまして
でも先ほど惟盛が落ち武者の中に紛れ込んでいた
そのような「仮説」で、少し納得がいきました」
「その仮説は正しいと思うのですが・・
実証するものが見つからないのです」
「見つかりませんか」
「河野君の仮説を相田さんに簡略的に
話してみたら・・・
相田さんこの説は誰にも話してはいないんです
実証できるものが・・・無いからです」
「私が2年の期間いろいろ調査を行ったんですが、
全国各地に平家の落ち武者は散らばりましたが・・
特に関東以北への落ち武者討伐は・・異常なほどでした」
「そうでしたね」
「落ち武者だけでなく、老人、女や子供まで
見つけたら、全員打ち首でした」
「また落ち武者を見つけたものには、褒美までだしたもんですから
全国各地で落ち武者探しになったんです」
「ひどいものだったでしょうね」
「相田さんも調べられてお分かりでしょうが・・
それは私たちの想像をはるかに超えたものだったようです」
「平清盛は、どうも戦いの状況が不利になってきたのを
察知して、事前に手を打ったのです」
「そうでしょう・・知将ですからね」
「このままでは、平家は滅亡すると考えたのです
そこでいろいろ考えた末に惟盛を逃がして
平家の再興を託そうと策略したんです
・・・ちょうど惟盛は源氏との戦いで大将として出兵して
負けたので・・いい機会だったのです」
「惟盛を呼びつけ大きな声で怒鳴り・・
一切の役職から外して閑職に追いやりました
敵の冠者が清盛の周辺にもいたと思いますので・・
源氏方には惟盛が清盛の怒りを買って失脚したと
いうことになりました」
「惟盛は源平の最後となる戦いには参加せずに
出家することとなったのです。
ここが清盛の策略だったのです。
このスキに、逃げさせたのです」
「源氏方は惟盛のことなど忘れたかのように
戦勝に酔いしれてましたから
歴史書などには
惟盛は清盛の怒りを買ったために、平家の一族としては
面目が無く入水自殺したとあります
もちろんこれは、惟盛の替え玉です」
「清盛はこのシナリオを描いて
惟盛を遠くに逃げさせて平家の再興を託したのですが、
平家が敗北した後に、捕らえられた平家の者から
惟盛は落ち武者に混じって逃げている・・・
というウワサを聞いたと源氏側に話した者がいたのです」
「それを聞いた頼朝は、ウワサだと一蹴しましたが
内心はとんでもないことだと思ったのです」
「もともと疑り深い性格で、そのようなこともありえると
考えたのでしょう」
「頼朝は内密に事を進めさせるように指示しました。
何しろ惟盛が生きて逃げたことになれば、平家側の力強い
再興の見通しが立ちますので」
「源氏側にも、平家側にもこのことは一切知らされずに
物事を進めるように指示されたのです」
「このことを知っている源氏側もほんの数人しかいなっかたようです」
「平家側の落ち武者には徹底して討伐するように指示が出されました
落ち武者同士が連絡を取り合うことなどもできないぐらいで
平家側にも惟盛が落ち武者に混じって逃げたという
情報は平家側でも清盛の側近の数人しか
知らないことでしたので
源氏側、平家側とも惟盛が逃げているなどと
知っている人は皆無に近い状態だったのです」
「その後の落ち武者討伐の状況は
相田さんもお調べになってお分かりかと存じます」
「そうでしたね
・・・でも・・・
源氏は落ち武者だけではなく家族や女子供一族みんなを
手にかけてますね
そこまでする必要が・・・・」
「これは私と先生の仮説ですが・・
更に何かあると考えているんですが」
「ありますか!」
「あります」
河野は力強く相田に答えた。
相田はなかなか頼もしい青年だと好感をもった。
「ところで、今の話は首藤さんには
話されましたか」
「首藤さんには、調査の依頼期間中にはこのことの話は
しませんでした。調査の事実を述べただけでした・・・
それでも首藤さんは、報告には大満足と言っていましたが・・」
「どうしましたか・・」
「調査の依頼期間を過ぎてまもなく・・執事の白戸さんが見えて」
・
・
・
「先生・・首藤が体調が悪くなりまして」
「首藤さんが・・」
「先生にもう一度会って話がしたいと申されまして」
「すぐでも伺いますよ」
最初は自宅で、それから調査の報告のときは自宅だったり
料亭のような所だったりでした
体調はさほど悪くも無く良くも無くと快活に笑って
おられたこともあったのに・・・
病室は個人部屋でした。
「・・葛城です・・
具合はいかがですか」
ドア〜を開けるなりそういうと
首藤はベットから起き上がろうとしたので、
「首藤さん後無理なさらずに」
「会長さん・・大丈夫ですか」
付き添いのお手伝いさんが心配して言うと
「なんの,なんの これくらい」
言葉とは裏腹に弱弱しく起き上がるのがやっとのことでした。
お手伝いさんは、
「私は外にいますから、何かあったら呼んでくださいね」
そういいながら、白戸さんと二人で病室から出て行きました。
ゴホンゴホン・・咳をしながら
「やあ〜葛城先生
こんな事になりまして」
「何を言うんですか、お元気そうですよ」
「ありがとう・・ 」
頬もげっそりとして、あの威厳のある首藤の姿は見当たりません
よほど病状が悪いように見受けられました。
少し気候なんかの話をした後
「先生・・・唐突で失礼ですが
先生は平家と何らかのかかわりはありませんか」
「おっしゃいますと・・」
「やあ〜あの最初の論文を読んだときから・・
わたしの頭には・・この方は平家とかかわりがある方と
ずーと考えてきたのです
そうでなければ・・この文は書けないとね」
少し沈黙が流れました。
「わたしも、平家とは関係があってな」
「首藤さんが」
「あなたもそうだとおもったんです・・直感ですが」
「そうですか」
「仲間ですからね・・・調査費も仲間なら惜しくありませんよ
どうも・・先が見えてきましたので
お聞きしておきたくて・・ご迷惑でなければ」
「迷惑だなんて!」
「調査もありがとうございます」
「本当にご無理なことを
快くお受けくださって感謝しています」
「首藤さん!」
そのとき、この人には本当のことを話そうと思ったんです
「首藤さん・・
首藤さんのおっしゃるとおり私は平家の流れを
汲む者です。・・・
今までお話をせずに大変失礼しました。」
「ああ〜そうでしたか
よかったよかった。仲間が増えて・・
な〜にわたしも先に話しておけば良かったのに」
急に元気になったように頬に赤みが増しました。
「それに・・調査では報告してませんでしたが
私と彼の仮説ですが・・」
「何でも教えてください」
「源氏は、惟盛を探していたのです」
「そうですか」
「首藤さんはどうお考えでしょうか」
「惟盛が逃げてる情報はありましたからね」
「更に重要なのは・・いやこれが本当に
源氏が探していた人物ですが」
「誰かほかに!」
「夜叉御前です」
「夜叉御前ですか?」
「そうです」
だが首藤は驚いた様子はありませんでした。
「葛城さん・・・やっぱり葛城さんですよ
この調査の狙いは・・・そこにあったんです」
ベットの背もたれに身を寄せていた首藤が両手を出して
葛城の手をとりました。
「ありがとう ありがとう」
大きく何度か上下に振りました
そうか首藤さんは知っていたのだ。
私たちに調査をさせて、確信したかったのだ
・
・
・
・
「夜叉御前!
やっぱりそうですか」
相田もうなずきました
「そうだと思いました」
「相田さんも、そう考えていたんですか
それは凄い」
葛城と河野は、
「でも実証が無いのです
仮説なのです」
とあきらめのようでした。
「葛城さん、河野さん調べましょ夜叉御前を」
相田の力強い言葉で3人はうなづきあいました。
・
・
・
「夜叉御前!怖い名前・・誰その人」
私が叫ぶとこずえさんは
「おじいちゃんの調査の目的は、この夜叉御前の
足跡をたどることで、手がかりを見つけ
3人の仮説を実証したかったのよ」
「それが今回の調査の目的」
「おじいちゃんたちの「仮説」を実証してやるの」
こずえさんは興奮気味に話しますが、
「できるわけないじゃないの」
「おかあさん・・できるわ」
「なんでできるって思うの」
「私も調べて見たの」
「こずえが調べたって?」
「おばあちゃんと葛城さんちや、河野さんとも会ったもの」
「河野さん!」
「おかあさん、元気かって」
「関係ないもの・・
あったってできるわけないじゃん」
「できるわ」
「絶対できない」
「できる
やってみせるから」
「できないって言ってるでしょ」
「おばあちゃん・・娘に何とか言ってやってよ
こんな頑固娘に育てたのは、おばあちゃんだから」
「何わけのわかんないこといってるの、この娘は」
「おばあちゃん」
「まあ〜ま〜二人とも
そう言い争わないで」
「伊藤さんおかあさんって
私のやることにいつも反対なんだから・・困った親ね」
「でも・・こずえさん
何年もかかっておじいちゃんたちや他の人が
調査をしてわからないことが・・私たちにできるかな」
「そうらね・・そういうこと」
「できるのよ・・伊藤さん」
「できるの?」
「できるのよ」
「で・・き・・る・・の・・?」
「できます。こずえにはできます」
この娘は変った娘だ
本当に・・・
3人はこずえさんに、引きずられるように
「夜叉御前」の話を聞くことになりました。
・
・
・
・
「こずえさん・・・
今日は最上街道から・・・入るけど」
「田山さんにお任せしますから
お好きなように歩いてください」
「で探すポイントは・・・」
「はい・・・沼があることと
沼の近くに薬草があることそのような場所を」
「沼はあっちこっちにありますけど」
「その沼の近くに薬草があれば」
「薬草ね」
「薬草でも「せんぶり」「おうれん」
「げんのしょうこ」「とちばにんじん」の4種類は
欠かせないの」
「4種類か・・」
「特に・・「とちばにんじん」は絶対よ」
・
・
・
神妙な面持ちの田山さんは、
こずえさんに従う「ワンワンちゃん」のように
全くの服従の態勢です
・
・
「トチバニンジン」
「とちばにんじん」
まったくこの娘には驚いてしまうことばかりなのです
この探検・・いや調査?・・道楽・・お遊び・・
うまく行くのでしょうか
車は秋空の朝早く4人を乗せて走り出しました。
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★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.9
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(9.仮説)・・・・・・・
「トチバニンジン」
「とちばにんじん」
まったくこの娘には驚いてしまうことばかりなのです
この探検・・いや調査?・・道楽・・お遊び・・
うまく行くのでしょうか
・
・
・
「でもね・・こずえさん
その後の調べでは、調査を重ねるごとにその説に疑問がでてきました。」
「疑問?ですか」
「惟盛は、どうやら奥州の方には向かっていなかったようです」
「でもおじいちゃんの資料によると・・・?」
「そうです・相田さんは最後まで当初の説を
曲げませんでしたから・・・・・何とかして手がかりをと・・
意気込んでいましたから」
「山形や秋田、宮城の方にも何回か足を運びましたが・・・
手がかりになるようなものは、何一つ見つからないのです」
「調べているうちに・・・首藤さんが亡くなり・・・
あの時は期待に応えられずに・・・残念な思いでしたね」
「私たち3人は、ちょっと目標を失いまして
首藤さんが亡くなられてからは
調査費も打ち切られまして、ちょっと戸惑いました
葛城先生は大学でも重要な役職に付き仕事が忙しくなり
あまり出歩きができなくなりました。・・・・・
もっぱら私と相田さんとで、調べ続けたのですが・・・・
相田さんも仕事と調査を並行して続けられていたのですが
相田さんも体調を崩して、・・・・・
それからは、私一人になったんです。
私は大学での仕事はしていましたが、割と自由な時間が取れましたので
これも葛城先生のお陰ですが・・・・
相田さんの体調を待って今までの調査を纏めようと、
話をしていたところ相田さんがアメリカの方に行くので、
当分調査はできなくなったということになったのです。
3人は一時調査は中止して、相田さんの帰国後再開することに
しました。
相田さんは3年ぐらいで帰国しましたので、
早速調査を再開することにしたのです。
そのときに相田さんは、自分の説を
こずえさんの持ってきた資料のように纏めてたんです。
是非この説を立証したいと語っていましたね」
「河野さんはおじいちゃんの説をどうお考えでしたか」
「それもあると思いましたが・・・
立証するものが・・・具体的なものが・・無かったので・・
ちょっと無理があるかなとは・・感じましたが」
「帰国後・・相田さんは精力的に動いていましたね
私も大学で助手になり・・・少し動きにくくなってましたから・・
一緒に同行することもほとんど無くなったんですが」
「おかあさんとは・・・いつごろ」
「相田さんが帰国後まもなくでしたね
ご家族でアメリカの方に行っていましたから・・・
まあ〜その話は、おかあさんかおばあちゃんに聞いてみてください」
「帰国数年後・・・
相田さんは以前の病気が悪くなられて・・・・
調査も断念せざるを得なくなったんです
相前後して葛城先生も、過労で倒れられて・・・・」
「調査の方は・・」
「その時点で・・・誰からと無く
終了もやむをえないという雰囲気になったんです
相田さんは会社の研究所を退職されて・・・
仙台のほうに退かれて「菌研」というものを
作られて・・・・」
「おじいちゃんは・・・
おじいちゃんは・・仙台に来てからも・・・
調べていました・・・」
「そのようですね・・相田さんは
自分の説を立証したいという信念をお持ちでしたから
あきらめていませんでした・・・・
相田さんが仙台に行ってから数年後に葛城先生が
お亡くなりになり・・・その後5〜6年ぐらいで
相田さんも亡くなりました・・・・・
お二人とも自分の仕事では、大成したと存じますが
このことについては・・・・・遣り残しがあったと・・
無念に思っていたことでしょう
20年以上追い求めてましたから」
「無念だわ・・・・
きっとおじいちゃんくやしかったでしょう・・・
家族には、あまり愚痴らなかったんですが・・・くやしかったわ・・」
「残念ですが・・・
現状は私たちの「仮説」の域を出ないんです・・
立証ができない限り・・・・「仮説」のままなんです」
・
・
・
「河野さん・・・」
「はっ!」
河野は突然の大きな声に驚いた様子でした
「私やります!」
「こずえさん!」
「私やってみます・・
おじいちゃんの調べたこと・・・」
「こずえさん・・やるって!」
「調べてみます・・
夜叉御前のこと・・」
河野はこずえの叫ぶような訴えに驚いた
このようなことに興味を抱くことにも、変った娘だと見ていたが
河野の話を理解できる歴史の知識力や観察力、
その時代の洞察力にも驚いた。
相田さんの資料はもう隅々まで見尽くし、更にはそれを立証する
根拠さえも持っているように見受けられた。
河野の次の推測をすでに察しているかのような鋭い眼差し
未知の物を追求する強い心が伝わってくるのが感じられた
この娘ならできるかもしれない
3人ができなかったことが・・・この娘なら・・・
不覚にも初対面の娘に感服してしまった自分に気がついた
対面している「こずえ」の姿がとても大きく頼もしく思えてきた
「何かあてでもあるんですか・・?」
「ありませんが・・やってみます
私にも考えがあるんです・・・」
「考え?」
「はい!」
「こずえさんは・・・・・・
どのようにお考えなんですか」
思わず河野は、こずえの意見を求めているのだった。
こんな娘が、こんなことに興味がありえるわけが無い
こんなことが理解できるわけが無い・・・
もちろん意見なんて・・・考えなんて・・・
・・・・うかつだった・・・
・・・・なんて意地悪な質問だ・・・
一瞬自己嫌悪に陥る自分がいた
でも、そんな思いは必要が無かった
耳を疑うような発言が「こずえ」から発しられたのだ
「河野さん・・
私の説もお聞きになっていただけますか」
「こ・・こ・・
こずえさんの説・・・!!」
「そうです」
なんということでしょう
耳を疑うような言葉です
この娘が・・・
平家と源氏との・・あの・・
自分たちでも20年以上にわたり調べてきた説に
自分の説も付け加えてきたのです
目の前には、まだ大学在学中の若い娘が・・・
大学の教授の前で自分の説を説こうというのです
信じられないことですが・・・
でも・・その新しい説は・・
この娘から語られようとしているのです
・
・
・
・
「田山さん・・
お宅に伺ったときにお話させていただいたんですが・・
落ち武者の生活はとても厳しいものでしたよね」
「そう・・それは想像を絶するようなものだったと思うね」
「落ち武者でも人間だから・・・まず食べる物を確保する必要があるわ
もちろん・・・誰にも見つけられない場所が前提ね
そのためには・・奥山が手っ取り早いのよ・・・
落ち武者ですから・・・地域をどこどことか探す余裕は無いの
家族も一緒に逃げていた者も多かったし
追っ手から逃げながらのねぐら探しだから
・
・
・
追っ手や、通報者などに見つからない安全な場所・・・
そのような場所は、人手が入ってない場所・・人が来ないところ
奥山は最適だけれど・・・住むには不適なの・・・
人里からそう離れてない奥山???っていうのかな
あんまり奥山は、生存条件が厳しすぎるのよ 家族には過酷よ
冬の寒さと雪が最大の敵ね・・・人も来ないけど自分たちも
危ないの・・・それよりも食料が確保できないわ
人里からそう離れていない山で、食料の確保できる場所
冬季間でも食料を確保できるところ・・・このような場所が
落ち武者の行く場所としては最適な場所よ
冬季間に食料を確保するには、山では沼のあるところが一番だわ
隠れ家は沼から100〜200mぐらいのところ
それ以上離れては・・・いけないの・・・
だって・・沼の近くで万が一見つかったら逃げ切れないわ
また・・沼に行くための足跡がついて・・・
それに隠れ家は沼の見通しが良いところ・・
沼を観察できるようなところよ
沼には冬には水鳥が来るのでそれをまず食料とするの
高すぎる山では沼でも凍って水鳥も来ないわ・・・・
それに動物たちも沼には集まるの・・・魚や水鳥を狙う
そのような動物や水鳥を食料とするの
どのように捕獲するかって・・・・
動物や水鳥も魚も人里はなれたところでは、警戒感が緩慢に
なっているから、獣や水鳥は罠で十分に捕獲できるわ
更に沼の大きさにも気をつけなければならないの
大きすぎてはいけないわ・・もちろん小さいのは凍ったり
雪に覆われたりしてもっといけないの
大きいと水鳥や魚も多くいると思うけど・・・
かえってそれを狙う猟師の格好の場所となって
いつ人がくるかわからないから
落ち武者たちの生活の場としては不適なのよ
沼の大きさは今の大きさで言うと・・・
約50m〜100m位の大きさが最適よ
まずそのような沼を探すことが、第一の探すポイント
食べなければならから・・・食料の確保が
水鳥や獣は、着るものや暖をとるための材料にも利用できるし
落ち武者はそこまで考えたっかて
当然考えたわ・・・生死がかかっているもの・・・
人間の能力は凄いわ・・・瞬時にしてそのようなことは
本能的にわかるのね・・・・・
とくに「夜叉御前」を預かった者なら、
姫に空腹はさせられないから、そのような場所は絶対に
見つけなければならなかったのよ・・・
必然的にそのような場所の近くが隠れ家としては
最適な場所なのよ
それに同行していた家来が、地元の猟師を雇ったから
隠れが探しはこの人たちのアドバイスもあったの
だから・・・・
田山さん・・・大きい沼は・・パスよ」
「大きい沼は・・パス・・ですね
でも・・・山にはそのような沼はたくさんありますが・・」
「でも・・3っつの条件が重なり合うところは、
絞られてくるはずよ」
「3つの条件ですか・・・」
神妙になっている田山さんに語りかける「こずえ」さんは
もう主従関係を通り過ぎているような
関係のようにも見えてくるから不思議です
ほんとに不思議な娘です
「こずえ」さん・・・・
わたしも・・・あなたなら・・・
・・・・・ 見つけるかもしれない・・・・
ふっとそんな気持ちになりました。
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★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.10
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(10.仮説)・・・・・・・
ほんとに不思議な娘です
「こずえ」さん・・・・
わたしも・・・あなたなら・・・
・・・・・ 見つけるかもしれない・・・・
ふっとそんな気持ちになりました。
・
・
・
「こずえさんの説ですか?」
「そうです・・」
・
・
・
こずえは河野に、語り始めました。
各地の戦いに敗れた平家を見て負けると察したのでしょうか?
清盛は、平家の再興をするために2つのシナリオを考えたのです
この時点では壇ノ浦の戦いはまだでしたが、時期を失してはと・・
一つは、惟盛に託す方法です
惟盛を失脚させて、自害させる
もちろん影武者が自害するのですが・・
本物の惟盛は、別ルートで逃亡する。
当初はこの考えで進んでいましたが、惟盛はあまりにも
知られすぎていました。
彼をみすみす逃すほど源氏も甘くは無いでしょう
そこで、もう一つの方法を計画したのです
二つ目ですが、
惟盛を逃がさせて、その隙に本来の再興を託す者を「逃がす」
という方法です
敵は惟盛を必死に探すでしょう・・そして「惟盛」を討った後は
油断をしてしまうだろう・・という策略ですが
本来の再興を託す者・・この人物それが「夜叉御前」です。
幼少、女であることが、敵の目を逃れることのポイントです
また、再興の時期をすぐではなく時間をおくという考えも
敵を欺くには格好だったのです。
惟盛を逃がすと見せて、本来は「夜叉御前」を逃がす
「夜叉御前」は、当時7〜8歳ぐらいでしょうか
惟盛は部下には信頼が厚く、その子供の「夜叉御前」なら
女であっても、再興の主にはふさわしいと読んだのです
またこんな幼少のころから、清盛の目に留まっていたほどの
姫君でしたから、白羽の矢は「夜叉御前」に・・・
「夜叉御前」は、持病があり、体が弱くそれが悩みでした。
でもこのことが、「夜叉御前」の秘密を解き明かす「種」になるのですが
この計画は極秘のうちに進められ、惟盛にも内密にすすめられました。
惟盛が都を離れてすぐに、
同じぐらいの年齢の娘を替え玉として都に呼びいれ、
惟盛の家族ということで住まうことになりました。
何も知らされて無い惟盛は、再興の夢を託されたと思って
必死に逃げるのです。
惟盛の影武者は、紀伊の方に向かい出家して・・
その後入水自殺を図ります。
これが表向きの、史実となっているのですが
惟盛は一路北に向かいました。
源氏の勢力が及ばないところを目指したのです。
惟盛は、奥州の藤原にかくまってもらうよう交渉しましたが、
藤原では惟盛を拒否したのです。
これが源氏方へ惟盛が逃げているという情報となって流れました。
あわてた源氏は、討伐隊を派遣したのです
でもこのときも源氏方でも、内密に進められました。
落ち武者を討つという名目だったんです。
惟盛が逃げてることを知られたくなかったのです
追っ手は日増しに多くなりました
やむなく惟盛は日光付近から新潟の方に抜ける道を選んで逃亡
しましたが、追っ手が厳しく逃げられないと見た
家来が逃亡途中の惟盛を殺めたのです。
一方「夜叉御前」を、逃がす一団も惟盛に遅れて都を立ちました。
同じルートを途中まできたのです。
「夜叉御前」の一行も、藤原を頼りにしていましたが、惟盛が
拒否された知るや、行く先を変更しました。
ここで逃亡先は決定されたのです。
「ここが重要です」
静かな中にも、確信に満ちた語りは河野を説得させるには十分でした。
「夜叉御前」の秘密を解き明かす「種」・・・?
「逃亡先を決定した・・?」
もう逃亡先までわかっているような語り草でした
そんなことが・・・
今まで調べても、手がかりは地元の人の言い伝えだけだったのに・・
何故・・・この娘にはわかるの?
驚きでした。
「逃亡先は、この時点で決定したのです
でもその地に行ったことがわからないようにするのが
「夜叉御前」を守る第一歩でした」
一行は奥州に行く道を通りましたが、一の関近辺で大きく秋田県方面に
進路をとりました。
今で言う地名は、一関、栗駒、花山そして鬼首と道を進んでいきました
落ち武者を追いかける追っ手は次第に勢力を増してきましたので
鬼首から、秋田へ逃げる一隊とここで分かれました。
これは、「夜叉御前」を守る「北の隊」として配置された一隊です
一隊といっても数家族だけですので、それは一隊としても
見過ごされるような人数でした。
さらに一団は、一団といっても逃げるのに大勢では目に付くので
実際には別々のバラバラに行動していたと思いますが
宮城県と山形県との境でまた二つに分かれました。
山形県の赤倉、銀山方面を「西の隊」として配置されました。
同様に数家族だけの小さなものです
一団は宮城県にはいって更に2隊に分かれたのです。
一隊は仙台方面に向かい山形と仙台の中央あたりの今で言う定義山あたり
これが「南の隊」にあたります。
ここも数家族です
最後に鳴子から川渡のところに一隊を置きました。
これは「東の隊」となりますが、「夜叉御前」の住処にも近いことから
身の回りをする隊です。
そして本隊は、ここで本隊という言葉が適当かどうか・・・
「夜叉御前」一行は敵に悟られないように一家族で山に入ったのです。
このように落人たちは、東に西に、北に、そして南に
いかにも分散して逃げたかのように見せて、敵をかく乱しました
実は夜叉御前を守る防御隊だったのです
防御隊といっても名ばかりで、落人狩りは厳しく、自分たちが逃げる
のが精一杯でした。
防御隊の逃げた場所も、深い山でとても「夜叉御前」を
守るまでの余力はなくなっていたのです。
それほど平家に対する源氏の圧力は異常なほどでした。
これは、「夜叉御前」が逃げたことを、洩らしたものがいて
このように追求が厳しくなったともみられます。
この場所が「逃亡先」だったのですが、
「逃亡先」を決定するには理由がありました。
・
・
・
・
車は一時間ほど走ったところで停まりました。
もう山形県堺に来ています。
「ここをまっすぐ行くと尾花沢や銀山方面・・
この右手に沼が数箇所ありますよ」
指差すところをみますと、看板が立っており
「鉄魚(テツギョ)」の生息地とあります。
「鉄魚ってなんですか・・」
「キンギョのような魚」
「金魚のような・・!」
「なんで鉄魚なんですか」
「詳しくはわからないけど・・・
なんか水なしでも数ヶ月も生きていられるから・・・テツギョとか」
「水なしで生きられる魚」
「無いって言ってもドジョウのように
泥かなんかに潜って生き延びるんでは・・・」
「どんな魚か・・見てみたい」
「フナとキンギョの間のようなかわいい魚ですよ」
「色のついてるフナのこと」
「タナゴのことですか・・タナゴとは違いますよ」
「見ようか・・」
「見たい」
「あの〜今日の予定は・・・・
ここではありませんが・・」
「そうか・・・でも見たいな〜」
「ここから歩いて1時間半ぐらいかかりますよ」
「そんなに」
「そうです」
みんなは、この「テツギョ」と呼ばれる魚が
どのような魚か見たくなったのです。
「そこには薬草は・・・」
「ありますけど・・
げんのしょうこ、せんぶりが中心で
オウレンやトチバニンジンはありませんね」
「トチバニンジンはありませんか」
「見たことが無いので・・・無いと思います」
相変わらずに丁寧な言葉で「こずえ」さんには、答える
田山さんでした。
「無ければ・・・
見るのを我慢して・・いきましょ」
「はいはい」「は〜い」「了解」
「こずえ」一行はその場を後にして再び走り始めました。
秋晴れの空は、山の頂のほうに数個の小さな雲があるだけでした。
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★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.11
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(11.仮説)・・・・・・・
・・・・・この場所が「逃亡先」だったのですが、
「逃亡先」を決定するには理由がありました・・・・
「「逃亡先」と・・その理由とは?」
思わず河野は、身を乗り出してしまいました。
「こずえ」さんには、その先が、おわかりなんですか」
・・・
「はい・・先生
これも私の説ですが?」
「どのような?
ぜひお聞きしたい」
「私は、夜叉御前を調べているうちに
こんな資料が気になりました」
「どのような・・」
「それは、おじいちゃんが残した資料のなかに
あったものです。・・それが」
「それが・・?」
あぁ〜じれったい・・・早く・・
河野は、こずえの次の言葉を待ちわびていたのです
「こずえさん・・それは
一体なんだったんでしょうか?」
いつの間にか立場が逆転して、河野はこずえに敬語を使い始めて
いた自分に気がつきませんでした。
「それは、夜叉御前が病弱でいろんな投薬を
試していたのですが、なかなか回復しないのです
業を煮やした「惟盛」が、もっと効く薬はないのか・・
探せと、命令したのです」
「薬・・ですね」
「家老たちから、良い薬を探すようにと命ぜられた
医師たちは、頭をかかえてしまいました。
もう手に入れられる薬という薬は、みな試していましたから」
「夜叉御前の病名は・・一体なんだったんですか?」
思わずまたまた、こずえに質問してしまった河野でした
「夜叉御前の病名は・・
医師もわからなかったんです・・」
医師の一人が難題に頭を抱えているときに、お供が
「先生・・なんか異国のほうに「○○にんじん」とかって
のがあるらしいんけど・・どうだっぺ」
「○○にんじん」・・・?なんだそれは!
しらないっけど・・なんかなんにでもよ〜く効くってうわさですよ
うわさだと・・そんなんもん・・・効くか!
でも・・先生・・試してみたら・・どうだんべぇ
うるさい!
と・・一度は怒鳴ったものの・・
妙薬にあてがあるわけでもないし
・・「○○にんじん」か・・
「○○にんじん」な・・う〜ん
「○○にんじん」・・
先生・・おら・・探しってみっぺか
「○○にんじん」か
先生
先生!先生ってうるさい・・考えさせろ!
その「○○にんじん」って言うものは、どこにあるんだ
わがんねだ
探せんのか
わがんねど・・探してみるすか?
う〜ん
しばらく天を仰いでいた医師は
探して見てくれ・・・
探してみる
うん・・急ぐぞ・・
そうだ・・急いで探してくれ
大至急だぞ・・わかったか
はい・・はい
急いで探しますで
急げ!
「それは、朝鮮人参のことですか」
「そのようでした」
「それで・・手に入ったんですか」
「運良く・・大陸から何かの関係で
入ったものがあったようです」
「その当時に日本海を渡る海運技術があったんでしょうか」
「ありました。もう日本近海は大陸からの
船が来ていたという史実がありますから」
「それで、その朝鮮人参は?」
「医師は早速、夜叉御前にこの朝鮮人参を、
妙薬として、煎じて服用させたのです」
「良くなったんですね」
「そうなんです。
顔の色艶が日増しに良くなり起き上がれるように
回復したのです」
「朝鮮人参ですか」
「この薬のお陰で回復したと、皆は信じていました。
幼い夜叉御前本人もそう信じてしまったんです。」
「ほんとうかどうかは・・わからないんですね」
「わからなかったんですが、偶然ですが回復したのです」
「それからは・・発作がおきるたびにこの朝鮮人参を
飲ませていました。」
「この薬は夜叉御前の常備薬のように重宝されたのです」
「幼い夜叉御前は、この薬があれば
もう大丈夫と信じきっていたようです」
「ところが・・問題が起き上がりました」
「問題が?」
「朝鮮人参が手持ちが少なくなったんです
大陸からは、定期的に交易をしているわけでもないので
手に入らなくなりました。」
「あわてた・・医師たちは
大陸からの船はいつだいつだと騒ぎ始めました。」
「が・・・船の入る見通しは無く・・・困り果ててしまいました」
先生・・どうしたんべ
あの・・朝鮮人参が手に入らなくて
ありゃりゃ・・困ったことだこと
どっかに・・持ってる人は・・
う〜ん
心当たりは、無いかのう
う〜ん
だめか・・
おら・・
しっとるのか!
いや!
知らんのか・・なんだ喜ばすな!
先生!
しっとるのか!
知らんけど
けど・・なんや
ちょっと聞いたことが
なに・・しっとるのか
知らんけど・・聞いたことが
何を聞いたんや・・はよいわんか
なんか・・似たものが
似たものが!・・それがどうした
似たもので・・だめでしょうか
似たもので・・だめでしょうかって・・なんだそれは
なんか・・似たものがあるうって聞いたんです
なんに似てる?・・朝鮮人参にでも似てるっていうんか
そうなんです
朝鮮人参に似てるって!はよいわんか!
聞いた話ですがそうなんです
なんだそれは
わしにはわからないんですが
お前は・・なんにもわからんやつやな
はい・・すんません
なんかしらんけど・・すぐもってこい
急ぎますんか
急ぐ・・・ああ大急ぎじゃ
あ〜はい・・はい・・
急げ・・
「代わりのものが見つかったんですか」
「見つかったんです」
「それは?」
「これが・・夜叉御前の行く先の鍵なのです」
「それが・・行く先の鍵!」
いよいよ確信に迫ってきた展開に河野は、期待に胸を
膨らますのでした。
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★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.12
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(12.仮説)・・・・・・・
大変お待たせしました。
先日「鉄魚(テツギョ)」を、インターネットで調べてみました。
鮒と金魚の中間のような魚で、体色が鮒の色よりやや曇りかけた
鉄さびのような色をしているので、「鉄魚(テツギョ)」とありました
地元の愛好家の人たちがテツギョを保存し続けているようでした。
・
・
・
車はまもなく左に折れました。
轍(わだち)になったところどころに、湧き水が流れて
水溜りになっています。
車道には葡萄や、サルナシの蔦が絡まった木から垂れ下がり
道をふさいでいました。
崖の斜面からは、雨水に流された小さな岩や、大きな岩が
道のふちまで崩れ落ちて来ています。
大雨のときに、雨水が林道を流れて川になって
表面の土を削っていったんでしょうか。
登りのきつい所ほど、大きなクレーバーのような溝ができて
車は大きく左右に揺れ、車にしっかりしがみつかないと
振り回されそうになります。
側溝が、土砂や木の葉で埋まりその用を成さずにいます
沢水を土管か何かをうめて道の下を通したのでしょうか
もうその土管も土砂に埋もれて水は林道を流れて、
大きな岩肌だけの林道ならず、岩道のようです
林道は水に削れとられて、崩れ落ち
谷底が見えるようなところもあります。
また崖ふちの立ち木は西風に負けて倒れて、道に大きく
横たわりチエンソーのようなもので切断されて
路肩によせられているところが何箇所かありました。
でも運転の「田山さん」は一向に気にする様子でも無く
普通の道を走るかのように、平然としているのです。
木を切り出すためにもっと危険な山道を走るのでしょうか
車は大きく左右、上下に揺れながら進んでいくのですが・・
なんといっても、残雪の山道を越えてきたり
増水した濁流を渡ったり、
道が崩れているところを丸太を敷いて渡ったりの
「田山さん」ですから、このような道はまだまだ
序の口のようです。
なんとも心強いのですが、無茶すぎて怖いのです。
「田山さん気をつけてくださいね」
車のゆれを気にしたのかこずえさんが言うと
「慎重に走っていますから・・大丈夫ですよ」
「慎重に!」
・・これが田山流の慎重な走りなんでしょう
もう・・2人は顔を見合わせてしまいました。
危険な箇所を何箇所か通り過ぎて、やや広いところに出ました
木を切り出したときの、拠点となったようなところです
「ここで休憩です」
田山さんが言うので、他の3人はやっと一息つくことが
できました。
「怖かったね」
「またこの道戻るんでしょ!」
「天気が良いからいいけど・・雨でも降ったら」
「もう歩いて帰る!・・」
「田山さん・・あとどのくらい」
「そうだね・・上まで20分ぐらいかな」
「よくこられるんですか?」
「めったにこないけど」
「最近はいつ頃こられたんですか?」
「2〜3年前かな〜 マイタケ探しに」
「マイタケ!」
「この辺はあんまりマイタケの出る木がないんで・・
そんなに来ることがないんだよね」
「上までいけますか・・
もし危ないんであれば・・歩いたほうが」
「大丈夫です。・・危なくないですから」
「大丈夫ですね」
「道は続いてますからね・・いけるでしょう」
と気楽な言葉なんです。
「薬草は・・沼は・・どうでしょう」
「あることはあるよ・・」
「ありますか・・・よかった」
薬草があると聞いて安堵するこずえさん
「ほらその崖地にも・・」
「崖にも薬草!」
3mぐらいの崖地のところに行くと、
小さな植物を指差しました。
「センブリだよ」
「せんぶり!」
3人は言われた植物を見ました。
小さな草がありました。
まもなく花を咲かすかのように小さなつぼみをつけています
崖地には同じよな小さな草が大きなススキなどに
混じってでています。
「これが「せんぶり」ですか」
ほんとに可憐な小さな草でした。
「せんぶり」と呼ばれた草はひ弱で崖地を吹く少しの風にも
大きく体を漂わせるのでした。
・
・
・
・
「代わりのものが見つかったんですか」
「見つかったんです」
「それは?」
「これが・・夜叉御前の行く先の鍵なのです」
「それが・・行く先の鍵!」
いよいよ確信に迫ってきた展開に河野は、期待に胸を
膨らますのでした。
・
・
「先生・・・ほらこいつだ」
「なんだ・・これは」
使用人が持ってきた薬草は、もう乾燥して
姿かたち、原型をとどめてはいません
「なんだかしんねーけど
これが効く〜て なんだっけ
あれ! あれ! 先生」
「朝鮮人参のことか」
「うんだ、うんだ それ・・それに似てるって」
今まで使用していた「朝鮮人参」も、手に入るころには
姿が大きく変形していたりで、自分も正確な
姿を見ることが無かった・・・
「似ているんだな・・朝鮮人参に」
「似てるって皆言ってるけど」
「効き目はどうなんだ」
「よ〜く効くって評判です」
「なんていう薬草なんだ」
「なんか・・おたにとか・・おたね
にんじんとか言ってましたけど」
「なに・・人参とな」
「そうです 人参です」
う〜ん・・
とにかく朝鮮人参が入るまで
これを使うしかないか
ためしに使ってみるか
恐る恐る・・その薬草を煎じて「姫」に飲ませたところ
体調のすぐれなかった「姫」が、元気になられて
起き上がれるようになったのです。
驚いたのはその薬草を使用した医者でした。
「効いた?・・効いたのかな?」
「これは、代用品になる?」
早速その薬草を多く手に入れるように指示したのです
薬草は日本海を経由して京の港に入ったようでした。
その薬草のでどころを調べさせると、今の酒田港付近から
入ったもののようでした。
その薬草を持ち込んだ商人に、
「これは・・何という薬草か」
「はいこれは・・おたね人参といいまして
とても病弱な体に良いものでございます」
「おたね人参!」
「はい・・おたね人参と申します」
「おたね人参な」
「出羽の方では、このおたね人参と、おうれんという
薬草を混ぜて服用するのが一番効果があるといっています」
「おうれんか・・おうれんはしっとる」
「おたね人参か」
その後は、「夜叉御前」には、「朝鮮人参」を使うことなく
この、「おたね人参」を主に「おうれん」「せんぶり」を
混ぜたものを使ったとあります。
「夜叉御前」の、常備薬でこの混合薬はとても効いたようです。
「夜叉御前」を任された警護隊は、万が一のことがあっては
ならぬとこの常備薬がすぐ手に入る
そのようなところが不可欠と考えたのです。
追っ手が厳しく薬草も簡単に手に入れることができない
また逃げてきたところも、採取地の近くだったので
「夜叉御前」を守るためには、
そのような場所も、隠れ家の要件ではなかったんでしょうか
はじめはそのようににも考えていましたが
実際には違うのです
彼女にはもうそのような治療薬は必要がなくなっていたのです
精神的にも強くなって
ただ家来の常吉らがそのことが気になっていて
その場所を選んだのでした
こずえの考えに耳を傾けていた河野は驚きの連続でした
自分たちの考えから脱却したところから史実を
見つめてる娘に驚いていたのです。
★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.13
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(13.仮説)09,3,6・・・・・・・
休刊が長くなりました。
改めて発行しますのでよろしくお願いします
・・・こずえの考えに耳を傾けていた河野は驚きの連続でした
自分たちの考えから脱却したところから史実を
見つめてる娘に驚いていたのです。・・・
・
・
・
・
「せんぶり」は、崖地に点々と発生していました。
小さな体の上部に蕾や花を咲かせています。
初めて見た薬草でした。
「田山さん・・これがせんぶり」
「そうだよ・・以前はどこでも見れたんだけど
根ごと採る薬草だから・・どんどん減って今では貴重品!」
「とても苦くて、千回も煎じられても苦く、用いることが
できることから「せんぶり」ということらしいの」
「昔はおじいちゃんが採ってきて乾燥させていたのを
見たことがあるわ」
「貧しくて薬なども買えないから・・・
腹が痛むと「せんぶり」を飲まされてましたね・・
食糧事情も悪かったし、手当たりしだい何でも口にしたからね
腹痛は日常のこと、せんぶりは家庭の常備薬だったから」
3人は代わる代わる田山さんの採った「せんぶり」を観察しました。
小さな野草で、葉も細く薬草と呼ぶにはぴったりの姿でした。
「こずえさんのようにけなげで可愛いね」・・
「あら!伊藤さん・・せんぶりに失礼よ」
「どうして」
「だって・・せんぶりは可愛い繊細な薬草よ・それに貴重・
・・こずえの容姿や言動からは、とてもとても・・・」
「おかあさん・・
おかあさんこそ失礼よ」
「どうして・・無神経なお嬢さん!」
「ほら・・その可愛い繊細な薬草を無雑作に
踏んでいるのは誰・・・誰でしょうね・・」
「エッ」
ふと足元を見ると小さな「せんぶり」は、
黄色の長靴の下に踏み倒れているのでした
「アッ失礼」
あわてて右足を上げましたが小さなせんぶりは
根元から折れて元に戻ることはありません。
「ほーらね・・ほんとに失礼なんだから
駄目よ・・人のことを言う前に自分の行いを正さなきゃ」
足元や周辺をよ〜くみると
林道の草むらには数センチぐらいの幼い「せんぶり」が、
あちらこちらに散在しながら出ているのです。
「こっちにも出てる」
「ほらここには・・・3株も」
小さな「せんぶり」は、道の両側だけでなく
タイヤの踏みつけることの無い林道の中央付近の
わずかな土にも出ているのでした
「たくさん出ているんだ」
3人は「せんぶり」の群生に感激してしまいました。
「よかった・・でてる」
山菜やきのこは、目が慣れないとそのものを見つけることはできません
特に「きのこ」は顕著です
「きのこ目」に、ならないと採取はできません
しっかり観察することで「せんぶり」も
その姿を多く見つけることが出来ました。
・
・
・
3人は「せんぶり」や、その周辺の野草
山なみなどを見て、自然の素晴らしさに感動していました。
・
・
なかなか本来の目的に動こうとしないのを
見かねたのか
「あの〜
そろそろ出ますか」
田山さんが遠慮がちに声をかけました。
・
・
お互いの顔を見合わせて・・
こずえさんが
「そうですね・・でかけましょうか
伊藤さん、おかあさんでかけますよ」
隊長のやさしく、きりっとした声に
感激に浸っていた2人は我に戻り
名残惜しそうに車に乗るのでした。
・
・
・
「こずえさん・・・」
河野は自分の説を力強く話すこずえに問いかけました。
こずえは話を中断して・・
「考えに無理が多いですか?」
「えつ・・そうではありませんが・・
こずえさんは清盛は何故夜叉御前を平家再興者に
選んだとお考えですか」
「先生や葛城さんおじいちゃんの説には、平家の家来に人望ある
維盛の子供で幼少、女で敵の目を欺むくには最適だったとありましたね」
「・・そうです・・」
「清盛は絶大な力を得た智将です・・・
平家の政(まつりごと)に不満を抱く不満分子は日に日に
増大する兆しがありました。
当時清盛の後継者は維盛の父である重盛であると目されていました・・・
重盛は知略にも富み、人望もある優秀な人でした
でも、清盛には何か物足りなさがあったのです。
自分の亡き後には、・・・一抹の不安があったのです。・・
ある日に重盛の館で「歌会」が催されたのです
重盛、重盛とは異母兄弟宗盛、維盛など平家の主要面々でした
清盛が地方からの目通りがあって席をはずし
席に戻ると自分の半紙に墨でなにかが書かれててありました。
見ると「平」と書いているようです。
稚拙な字でしたがその字には清盛を惹(ひ)きつけるに十分な
勢いがありました。
しばらく見つめて
「誰の始末じゃ」と叫ぶと
重盛が飛ぶように来て、
半紙に書かれた「字」を見ると恐る恐る
「姫の仕業です」
「姫!」
「 維盛の!」
「連れて参れ!」
その席上で清盛は夜叉御前と出会いました。
夜叉御前は幼少で2〜3歳だったでしょう
「この幼い娘(こ)の仕業と申すのか?」
目の前にいるのは、弱弱しい幼子でした
「この幼い娘が」
「は、はあ・・はい!」
「名は!」
「夜叉御前と」
「夜叉御前!」
夜叉御前と呼ばれた小さな子は、重盛に頭を押さえつけられて
畳に伏せています
「これ!・・乱暴をするでない」
「は、はあ」
「顔をあげ」
小さな子は顔をゆっくりと上げました。
清盛をみると「にっこり」して、
「夜叉御前と申します」・・
幼子がはっきりと応えたのです
・・・この幼い娘が・・・
清盛は、日に日に増大する反平家分子に気を病んでいました
それに増しても平家を託すことの出来る人材に頭を痛めていたのです
ここにいる幼少の姫はあどけなさにも他とは「違う」ものがあり
清盛の心に安堵感をもたらしたのです。
「夜叉御前」は、わずか2〜3歳で清盛の心を捉えたのです
また清盛にはそれを見抜く力もありました。
清盛は心地よい感動を覚えました
翌日清盛は重盛、宗盛の二人を呼んで、
反乱分子の対策を命じます
席上、清盛は二人に平家の存続について話をし
「平家の滅亡」を防げと檄を飛ばしまいた
自分の余命をも考慮し、用心深い清盛は更に重盛に命じました
何かがあれば「夜叉御前」をと
「夜叉御前?」
「夜叉御前?」
重盛、宗盛ともこれには驚いてしまいました。
幼子で、女・・?
二人には清盛の心が計り知れませんでした
とくに宗盛には、重盛の直系にあたる「夜叉御前」には不満でした
いかに反乱分子が増しているとしても、平家の力は偉大でしたので
そのようなことは二人とも微塵たりとも考えられませんでした。
しかし清盛は「用心のためだ・・準備だけはしておくように」と
命じられたのです。
清盛の時代の先を読む力にも二人は逆らうことは出来ませんでした
そのときに「夜叉御前」にその復興存続の命を下したのです。
これは、清盛、重盛、宗盛3人だけの機密事項として進められることになり
重盛が計画に当たることになったのです。
重盛は重臣の平貞能(さだよし)に命じて準備をはじめることにしたのです
清盛に告げると適任だから、内密にすすめるようにと命じられました
「貞能ですか・・・」
河野は落ち武者のなかでも、平家の中心人物でありながら
生きながらえた「貞能」は、よく調べた人物でした。
「貞能が」
「そうです後に定義と改めました」
「定義と、改めたのですか?」
「そうです」
なんという娘なのだろう・・
我々があれだけ調べたのに、もうそれ以上のことを
調べつくしている。
こずえの説は更に続きます
「貞能は父の代から平家には忠臣で名高く、清盛よりは重盛に
よく使えた重臣ですが、清盛も貞能なら安心だったでしょう」
「清盛は本能的に「夜叉御前」を選んだのです。
もちろん先生方の説の幼少、女で敵の目を欺むく
復興に時間をおくも加味されていたことは、言うまでもありませんが」
・
・
・
「清盛は智将ですから
亡くなる前に「夜叉御前」の復興についての
細かい指示を重盛にしていたんです」
・
・
・
「敵を欺くには味方を欺くやり方です」
・
・
・
・
無言が続きました
・
・
・
「・・・でも・・・」
「でも?」
「清盛にも予測のつかない誤算がありました」
「誤算?」
「そうです・・誤算です」
・
・
・
「源義経(みなもとのよしつね)が、誤算でした」
「義経が誤算?」
・
・
・
「清盛が生きていたら・・悔やんだでしょう」
・
・
・
河野は事の展開に驚かずにいられませんでした
・
・
・
平貞能(さだよし)といい、源義経(みなもとのよしつね)といい
あまりの突拍子の無い展開に戸惑ってしまうばかりです
河野の前のこずえは、悲しそうに床に目をおろしました
・
・
・
しばらく沈黙が続きました。
★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.14
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(14.仮説)09,3,13・・・・・・・
河野の前のこずえは、悲しそうに床に目をおろしました
・
・
・
しばらく沈黙が続きました。
・
・
・
「先生!・・・昔の武将は、いつでも自分たちのことだけしか
考えていなかったんですね」
頭を上げるなりこずえは、怒った様子でいうのです。
声も大きく震えているようでした。
「いつも・・自分のことだけが優先するんです」
「他の人たちはみんな捨て駒なんですね!」
・
・
・
「自分に都合が悪ければ、親でも妻でも子供でも
殺めてしまうんですから・・・」
「これが権力者のやることなんでしょうか?」
「力のあるものが、無いものをねじ伏せてしまう・・
これでは・・腕力の無い者や、女や子供はいつでも犠牲者です」
・
・
・
「夜叉御前も時代の犠牲者なんです」
・
・
いっきにここまで言うとまた、顔を伏せてしまいました。
・
・
また沈黙が続きます
・
・
・
外は暗くなってきました。
電灯の明かりがちらほら見え始めました。
薄暗くなった河野の前には、色白の小柄な若い女性が何かを
訴えようとしているように見えました。
・
・
・・・・和室の薄暗さが異様な雰囲気になり、時代が遡(さかのぼる)って・・
一瞬「こずえ」と「夜叉御前」が重なって見えたように感じました
いまにも立ち上げってきそうで体が身震するのを覚えました。
・・・・思わず頭を小刻みにふると・・
・
・
「先生!」
・
・
「なん!・・なんですか!
”こずえさん”」
こずえの言葉に、救われた感じがしました
・
・
「清盛が夜叉御前を選んだ本来の目的は、平家再興のためではなく
自分たちの都合、策略のためだったんです。
清盛も重盛も策略家でしたから・・・
平家の棟梁は、清盛、重盛、維盛とつづくシナリオでした。
他の人たちもみんなそのような事実と受け止めていました」
・
・
・
先ほどとは違い、静かな落ち着いた口調です。
・
・
「・・平家の反乱分子が、顕著になってくることで清盛は頭を痛めていたのです
多くの反乱分子は都より東、今の甲信越、関東方面が多かったのです
そこで清盛は都に時々訪れる奥州藤原一族に目をつけたのです
奥州は当時は都から遠く離れ、権力などとは無縁の地でした。
藤原も心得ていて中立の立場をとり、都には欠かさずに貢物をもって
忠誠心を表していたのです。
その藤原を味方につけようと企んだのです。北に藤原がいれば、関東圏の勢力は
都を攻めるわけにはいきません。北からいつ侵攻されるか・・という牽制役に
なるからです。
今は中立の立場ですが「夜叉御前」なら、藤原家を平家側に
むけることはできるだろうとよんだのです。
あわよくば藤原を夜叉御前にのっとらせようとも策略したのかも知れません。
そうすれば、維盛の時代には磐石な平家王国を
築き挙げることが出来ると踏んだのです
このことは宗盛には話しませんでした
宗徳は源氏の戦いで逮捕され処刑される段になって
「自分は平家の直系ではなく平民の子だ」などと、平気で言う男です。
清盛がそのような気質を見逃すはずがありません。
力はありましたが、心から気は許していなかったのです
でも、重盛が病死、清盛は倒れ、維盛逃亡と・・
宗盛の時代になってしまい、時代の流れは大きく源氏側に傾いたんです・・
・・・計画は結果的には平家再興のためのようになったんですけど・・
葛城先生は生前に首藤さんから「解釈が」と何度も言われてましたね
あの解釈は河野先生のお考えだと思うんですが」
・
・
・
そういいながらこずえは、河野を見つめました。
・・・「そうですよね」っと念をおすようなまなざしです・・
河野は重盛があのときに生きていれば、源氏には負けなかったと
今でも考えているのです。
こずえの目も同じ考えのようでした。
・
・
・
いつのまにか、自分の調査したことや、自分たちの説が
こずえに肯定されると、「安堵する」自分がいるのに気がつきました。
・
・
「・・・なんて娘だ・・・」
「・・・なんて娘だ・・・」
話を聞けば聞くほど信じがたい事柄が真実のように
思えてくるのです
「この娘なら・・
真実を解き明かすかもしれない・・・」
・
・
そう思えてくる河野でした。
・
・
・
★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.15
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(15.吉次とお香)09,3,20・・・・・・・
「この娘なら・・
真実を解き明かすかもしれない・・・」
・
・
そう思えてくる河野でした。
・
・
・
4人を乗せた車は再び走り始めました。
山道はまだ登りが続きます。道の右手西側が崖でところどころ
岩が崩れ落ちて、道に亀裂が入っているところがあります。
体は大きく右下がりになったり、前に倒れたり
大きく前後左右に揺れ動くようになりました
しっかりと手摺にしがみついていないと投げ出されそうになります
雨水が林道を川代わりにして流れたのでしょう。
土砂は削り取られて岩の頭があちこちに飛び出しています。
「少しゆれるからね」
という、田山さん
「これが・・少し?」
今日はお客人2人を案内しているのに、
気にかけている様子は見られないのです
まあ〜・・山男にはこれぐらいはなんともしないのでしょう
ところが、思い出したかのように
「こずえさん・・もっとゆっくり行きますか!
もう少しですから・・我慢してくださいね」
と・・やさしく声をかけてきました
「大丈夫ですよ・・
田山さんこそ気をつけてください」
こずえさんの返事に
「ハイわかりました・・気をつけますから・・」
と、姿勢を正すのでした。
もう完全にワンワン子状態なのですから・・
・・・とてもおかしくなってしまうのです・・・
林道は西側に崖地を見るところから、
山の谷沿いの真ん中を抜けて東に進路をとりました。
先ほどのでこぼこ岩道から、平坦な砂利道に入ります。
両側の木は太く大きく、道は陽がさえぎられ暗くなっています
前方はトンネルを抜けたかのように明かりが射していました
トンネル状態をを抜けると、眼下には広〜い山並みが見えました
大分高いところまで登ってきたようです。
少し開けた見通しの良いところで車が停車しました。
「ここで、小休止・・
ここからは、ススキや藪で道が見えなくなるので・・
ちょっと道の状態を調べてから・・・」
といって、田山さんは車を止めて、一人で藪などで覆われている
道のほうに歩いていきました。
3人は車から降りて初秋の山を見ました
山は空気が澄んでとてもきれいに見えます
もうここまででも、本道から40分ぐらいかかりました
車で40分・・山道なので時速20kmとしても約15kmぐらい
もし歩くとすると時速4kmで歩いたとしても山道ですし
3〜4時間ぐらいかかる距離です
「こずえさん・・大分と山の中ね
こんなところまで逃げてきたのかな〜」
・・・素朴な疑問を投げかけると・・
「伊藤さん・・!
特別な落ち武者「夜叉御前」一行には、これぐらいでも
危険な範囲だと思うの・・・」
「こんなに奥地でも・・」
「そうよ・・
・・敵には絶対に見つからないようにしなければならなかったし!・・・
・・・それに、この場所は
ある目的地に行くまでの一過程の隠れ場所なんだから・・」
「ある目的地に行くまでの一時的な隠れ場所って・・?」
「そうよ!
敵の目を欺く・・一時的な隠れ家なの・・」
「では本来の行く先ではなかったのね!」
・
・
・
こずえさんは、自分の考えを
話すかどうか迷っている様子でしたが・・・
・
・
・
「「夜叉御前」一行の行く先は平泉の藤原家なの」
「平泉の藤原!・・
だって・・断られたのでこちらに来たんでは」
「そうよ・・断られたの!」
「だったら・・何故?」
「う〜〜ん
・・・「敵を欺くには、味方を欺く」っていうことなの・・」
「敵を欺くには、味方を欺く・・ややこしいこと」
「「夜叉御前」に平家の再興を託すことになったので
失敗は絶対に許されないの・・・
重盛は生前に色んな方策を立てて・・・・
それは幾重にも仕掛けが考えられていたの」
「それの・・ひとつね」
「ふ〜ん・・そうなんだ
さっぱり・・なにがなんだか」
「伊藤さん・・今にわかるから・・」
そういうと・・
小走りに田山さんの後を追うように行ってしまいました。
「今にわかるって・・わからない・・・
絶対私にはわからないなあ〜」
・
・
・
数匹の赤とんぼが飛んできました。
目の前のススキの穂に一匹が止まりました。
大きな丸い目をくりくりと動かすと、風に驚いたのか
すぐさま飛び去りました
・・・青空に飛んでいる赤とんぼ
あなたたちは800年前も飛んでいたの・・・
そして夜叉御前を見たの
教えて・・・
・・・・そう問いかけたくなりました。・・・
・
・
・
・
「首藤さんは、葛城先生の「解釈」に、
えらく気に入っておられたようでしたね
重盛が生きていれば、大きく歴史は変わっていたと・・
でもその後も、何度か平家にはチャンスがありました
それを、権力争いから逃がしてしまったとありましたね
私も同じ考え方です。」
「その張本人は宗盛です。
清盛が重盛の直系の「夜叉御前」を指名したことで宗盛派は
主流から外れてしまうことになるのですから・・
宗盛は権力争いのために、平家を滅亡させたんです
先生そうでしょう・・」
河野は葛城先生の「解釈」には、異論はありませんでした
それに「こずえ」が同調することには大満足でした
「・・・葛城先生・・・
きっと先生がこの場にいたらうれしいことでしょう
私たちの長年の夢を解きほぐしてくれそうな
とんでもない娘が現れましたよ・・・ 」
河野は亡き恩師に心で報告するのでした。
「重盛は清盛の命をうけて、
藤原との折衝、夜叉御前政略の段取りを始めました
平貞能(たいらさだよし)と秘密裏に進めたのです
藤原とのパイプ役はあの名高い「金売りの吉次」と言う男です
「金売りの吉次」は、奥州の金銀を都に運ぶ商人でしたが
謎の多い人物で今で言う「闇商人」だったのです。
金(かね)で動く強欲な2重スパイでした。
あるときは源氏の義経の家来のように振る舞い、
あるときは平家側への密者の役目もしたのです。
もちろん「吉次」には、事の内容を明かしていませんでした
藤原との情報収集に利用したんですが
重盛の命を受けた平貞能らは、
「吉次」がいることで、奥州藤原に行く道中
反乱分子や源氏側には怪しまれることなく行けたのですから・・
また「夜叉御前」を、藤原に送る付け人に
重盛はある人物を選んだのです
「夜叉御前」再興の鍵を握る人物に任命されたのは
重盛の奥さんの付け人の「お香(おこう)」という女性でした
重盛から使命されるほどの人物ですからよほどの女性だったのでしょう
彼女はその後はず〜と「夜叉御前」と、動向を伴にした重要人物です」
「・・金売り吉次とお香さんですか・・」
「う〜〜ん」
河野はうなってしまいました。
「義経、金売りの吉次、お香・・・」
次から次への人物像の出現には、もう驚いてしまうばかりです
・
・
外はもう暗く、部屋の中からは見えるものが無くなり
窓ガラスには二人の映像が浮かび上がってる河野邸でした。
・
★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.16
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(16.お香)09,3,29・・・・・・・
「義経、金売りの吉次、お香・・・」
次から次への人物像の出現には、もう驚いてしまうばかりです
・
・
外はもう暗く、部屋の中からは見えるものが無くなり
窓ガラスには二人の映像が浮かび上がってる河野邸でした。
・
・
・
「おやかた様、お呼びでしょうか!」
「おお!武市(ぶいち)か、遠慮するでない入れ!」
「はは!・・恐れ入ります」
「お香は・・!」
「はっ!次の間に控えさせております」
「おおそうか!呼ぶがよい」
「はっ!」
武市と呼ばれた男は、一礼すると礼儀正しく部屋を出て行きました。
重盛は日増しに耳にする反乱分子、反平家分子がただならぬ動きになってくるのを
肌で感じ手を打たねばと思ってる矢先に、
清盛から、「夜叉御前」と藤原の件を聞き流石(さすが)に謀略にたけた人だと
感服しました。
重盛は平家の棟梁でしたが宗盛派は、
事につけて棟梁の座を奪おうとする兆しがありました。
今回の件には宗盛は不満そうでしたので
火種を残さねばよいのだがとも思っていたのです。
清盛の構想どおりに、藤原が胸襟を開いて事を進めてくれれば
維盛(これもり)の代には、今より磐石な平家時代が訪れよう・・
そうも考える重盛でした。
何事も慎重な、重盛は綿密に計画をたてました。
まず、計画の実行部隊には「重臣の平貞能(さだよし)」を任命し、
藤原の折衝にあたらせました。
平貞能(さだよし)は、父親の代から平家には特に忠信を尽くした
最も頼りになる人物でした。
事の計画は、誰にも漏らさずに自分の口を封じられようと、
命には背く男ではありません。
平貞能には、藤原が飛びつきそうな条件を持参させました。
藤原秀衡(ふじわらひでひら)は、藤原4代続いた栄華の中でも
より、野心家でした。
清盛は、この藤原秀衡ならこの話に十分乗ってくる男だと踏んだのです
平泉の藤原奥州文化はこの時代は都の京文化に次ぐ繁栄でしたので、
何不自由なく暮らしていたのです。
でも、藤原秀衡は都にも興味を示していたので、
それを見逃さずに仕掛けた清盛でした。
藤原の折衝と並行して「夜叉御前」の藤原謀略、平家再興シナリオを
重盛は考えました。
「夜叉御前」は、才能優れているといってもまだ幼少。側近には
「夜叉御前」を保佐し保護ができ、且つ藤原との交渉などもできる
有能な人物が必要でした。
隠密の行動なので平家側にも知られてはまずく
思案の末に重盛は男ではなく女を選んだのでした。
3畳ほどの控えの間から、男装の格好をした女が武市に
促されて重盛の前に進み出ました。
「お香か!」
「ははぁ〜お香にございます」
重盛の前に若い女がひれ伏して、そう答えました
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結局車は通れないぐらいに、雑草で道は覆われていました。
4人は田山さんを先頭にこずえさん、相田さん、私と列をつくって
進むことになりました・
田山さんが断念するぐらいですから、雑草は相当な伸びです
「ほら・・林道は日当たりがいいから
誰も来なくなると雑草が伸び放題になって!」
常備してる鉈(なた)で大きくなった木の枝を払い落としながら
「かえって山の中のほうが歩きやすいな」
「山の中のほうが歩きやすいの?」
「歩きやすいよ。木が大きくなって日あたりが悪いから
雑草は伸びにくいし、山の動物たちの道があるから・・
俗に言う「獣道(けものみち)」っていうところかな」
「そうなんですか」
「でも!山の中は斜面が多いし、目的地までは遠回りだから
ひどくても・ここが近道なんだよ」
「私は大丈夫ですから
気にしないでください」
田山さんとこずえさんが先頭のほうでなにやら会話をしているようです。
坂を少し下ったようなところは、一面が身の丈以上の竹笹に覆われて
先頭が見えなくなりました。
「すこし〜ゆっくりいってくださ〜い」
相田さんが私のことを心配して田山さんに声をかけました。
本当に前の人が見えなくなりそうです
思わず相田さんの上着をつかんで背中に顔を当てました。
「ひどいところね”」
目をつむりたくなるぐらいに笹の葉が顔に跳ね返ってきます
「もうすこしだから〜」
田山さんの声が聞こえました
・・・・本当にこんな山奥まで来たのかしら・・・
・・広大な山の中から、小さな一点なんて見つかるのかしら・・
不安を増大させるに十分な棘(いばら)の道でした
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★★★★★★★★★★・・・・・・・・・・・・ vol.17
山菜きのこ メールマガジン
「ちいくろ奮戦記」
・・・・・・★★★★★★★★
・・・ ・とちばにんじん(17.お香)09,4,07・・・・・・・
・・・・本当にこんな山奥まで来たのかしら・・・
・・広大な山の中から、小さな一点なんて見つかるのかしら・・
不安を増大させるに十分な棘(いばら)の道でした
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笹薮の小道は10分ぐらいで通り過ぎました。
帰りもこの笹薮を通るのかと思うと、辛くても山を横切ったほうがまだ
楽なのではと思えるような小道でした。
道は曲がりくねった急斜面になりました。
水音も聞こえてきます。
渓流が近いのか、岩が多くなってきました。
足元には大きな岩が黒い光を放っています。いかにも滑りそうな岩です。
「意地悪な岩があるから・・気をつけて」
相田さんが手を差し伸べてくれました。
「よいしょ!」
思わず大きな声をだす私に
二人は、苦笑してしまいました。
奥山の「山菜やきのこ」採取ではこのような場所は多く、慣れているつもりでしたが
今日の小道は人が入ってないせいか、私たちを歓迎していないようです。
「山のおじゃま虫なのね・・私たち」
「そうよ・・静かな生活を荒す侵入者だから」
「でも・・有益かもよ・・だって種の保存に一役買うかも
ほら・・衣服や靴などに種を付けて別な場所に増やすってこともあるから・・」
「それがわかる、山さんたちかなあ〜」
「わからないか・・?」
「おじゃま虫よ・・やっぱり」
「そうか・・」
小道には、小さな沢水が流れ始めました。
きれいな湧水が岩肌の上を流れて日の光にキラキラ輝いています
岩を包むかのように流れた水は、窪みに水溜りとなり窪みからの溢れた水は
清水となって渓流のほうに流れていました。
渓流近くには先ほどとは違って、山が広くなって中洲のようになっています。
湿った大地には、「ワサビ」の姿が目に付くようになりました。
濃緑色のワサビは清水を気持ちよさそうに浴びています。
「わさび?」
「わさびだよ」
いつの間にか田山さんが来て、ワサビを抜き取りました。
「おお・・大きい」
見ると、ワサビの根元に10cmほどの親指大の根がついています
「これが本ワサビだよ」
「大きいですね」
「大きいね・・少し採っていったら」
「採ってもいいですか?」
「ワサビの旬っていつなんでしょうか?」
「ワサビの旬ね・・」
すると・・田山流のウンチクが始まります。
ワサビには春ワサビ、夏ワサビ、冬ワサビがあってとか
花が咲く時期の・・霜が降りたときの・・・云々
「結局今の時期のワサビは、旬ではないのですか?」
「いやいや・・それは葉や茎のことで・・
根は一年中旬って事だよ・・」
「じゃ・・遠慮しなくてもいいんですね」
「そうそう・・一年中旬だから・・」
なんか苦し紛れの言い逃れ答弁に聞こえましたが
二人は旬の根ワサビをすこ〜し頂戴することにしました。
初秋の陽射しでも今日は暑く感じられました。
もう・・小道を下ってきただけでも汗が噴出しそうです
冷たい沢水での「ワサビ採り」は、ちょうどよいタイミングでした。
・・・でも、でも・・
こんなところで楽しんでいても、いいのかな
こずえさんの方をみると、なにやら熱心に双眼鏡をのぞいているのです
・・う〜ん・・・
・・・大丈夫かな・・・
・・仕方ないか・・こずえさん頼みだから・・心配しても・・
・・やっぱり不安になる私でした・・
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顔を上げたお香は、凛として重盛を見つめました
重盛もお香を見つめました。
うぬ・・この「おなご」ならやれるかもしれない
そう確信した重盛でした。
「お香・・夜叉御前は知っておるの」
「はい!もちろん存じ上げています」
「そちに、頼みがあるのじゃ」
「はっは・・なんなりと」
その言葉と同時にあとずさりしながら平伏するお香に
「これこれ・・そんなにかとうならんでも」
「はっ」
男のような仕草にも気に入った重盛でした
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「先生!首藤さんが葛城先生や先生に
平家の落ち武者のその後の調査依頼した本当の理由は、
落ち武者でも夜叉御前でもなくお香さんにあったんです」
「えっ・・お香さん・・・
・・・ お香さんって・・」
またまた・・新しい展開に・・
「お香さん・・」・・
河野らの調査にはお香という人物は一切現れてはきませんでしたので
とても驚きでした。
「それは・・こずえさんの仮説ですか」
「仮説!・・仮説でもないかもしれません
だって・・首藤さんは知っていましたから」
「首藤さんが知っていた?」
「知っていたんです・・
先生たちがもっと資料や情報を収集して・・と期待をしていたのかも」
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もう・・河野にも何がなんだか訳がわからなくなってきそうでした
聞けば聞くほどに、込み入ってくるのですから
ほんとに、この娘は・・一体なんて娘だ・・・
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正座してこちらを見ている若い娘は暗くなった窓の外を涼しげに見つめていました。
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